集中減算の見直しを勧告

介護保険制度の実施状況に関する会計検査の結果についての報告書(要旨)
平成28年3月 会計検査院
http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/28/pdf/280325_youshi_01.pdf

2 検査の結果
(2)介護サービス等の実施状況
イ 特定事業所集中減算とケアマネジメントの公正・中立の確保
(ア)集中割合の状況等
 21都県に所在する支援事業所18,605事業所のうち24年度後期又は25年度前期の判定期間に居宅サービス計画を作成していた支援事業所から抽出した2,230事業所について、その作成した居宅サービス計画に位置付けられた3居宅サービスの中で集中割合が最も高いサービスの集中割合の状況を調査したところ、24年度後期及び25年度前期のいずれの判定期間においても、集中割合が70%超90%以下となっている支援事業所が最も多くなっていた。そして、25年度前期の判定期間における集中割合が最も高いサービスについて、最も多くの居宅サービス計画に位置付けられた居宅サービス事業者が、当該居宅サービス計画を作成した支援事業所を運営する支援事業者と同一であるものが多数見受けられた。
 また、24年度後期又は25年度前期の判定期間において21都県又は26市等に対して特定事業所集中減算届出書を提出していた1,609事業所のうち1,279事業所(79.4%)及び1,594事業所のうち1,280事業所(80.3%)については、その作成した居宅サービス計画に位置付けられた3居宅サービスのうちいずれかのサービスの集中割合が90%を上回っていることについて正当な理由があると認められていて、特定事業所集中減算の適用を受けていなかった。さらに、正当な理由の認定状況については、各都県等間で差異が見受けられる状況となっていた。
(イ)特定事業所集中減算の効果
 厚生労働省は、特定事業所集中減算の導入に際して、ケアマネジメントの公正・中立の確保と集中割合に一定の基準を設けることとの合理的関連性及びケアマネジメントの公正・中立を確保するために集中割合の基準を90%超とした根拠については、現在、いずれも明らかではないとしている。
 そして、前記2,230事業所のうち、24年度後期及び25年度前期のいずれの判定期間においても集中割合が80%超90%以下となっている306事業所について、居宅サービス計画の作成に当たり、所属するケアマネジャーが特定事業所集中減算の適用を受けないようにするために居宅サービス計画の内容を変更するなどして、意図的に集中割合を低下させること(以下「集中割合の調整」という。)を行ったことがあるかどうかについて調査したところ、調査に回答した216事業所のうち76事業所(35.1%)において、ケアマネジャーが居宅サービス計画の作成に当たり、特定事業所集中減算の適用を受けないようにするために集中割合の調整を行ったことがあると回答した。
 このように、集中割合の調整が行われる場合には、ケアマネジャーは必ずしも利用者の心身の状況、希望等を勘案して居宅サービス計画を作成していないことになり、このようなケアマネジメントは、ケアマネジャーはその担当する利用者の人格を尊重し、常に当該利用者の立場に立って業務を行わなければならないとしている運営基準等の趣旨に反すると考えられる状況となっていた。
 また、前記2,230事業所のうち、24年度後期及び25年度前期のいずれの判定期間においても集中割合が100%となっている支援事業所が16事業所見受けられた。そして、この16事業所における居宅サービス計画の作成方針等について調査したところ、調査に回答した11事業所のうち、支援事業所の方針として単一の居宅サービス等事業者を居宅サービス計画に位置付けることとしていた支援事業所が3事業所あり、また、今後も、特定事業所集中減算の適用を受けないようにするために居宅サービス等事業者を分散させる予定はないとしている支援事業所が4事業所あった。
 このように、支援事業所の方針として、居宅サービス計画の作成に当たり特定の居宅サービス等事業者を位置付けることとしていることは、運営基準等の趣旨に反すると考えられる状況となっており、特定事業所集中減算は、支援事業所の方針として単一の居宅サービス等事業者を居宅サービス計画に位置付けるなどとしている一部の支援事業所に対しては、厚生労働省が期待できるとしている、居宅サービス計画に位置付けられる居宅サービスが特定の居宅サービス事業者の提供するものに不当に偏らないようにする牽制効果が十分に生じていないと考えられる。
(ウ)27年度改定に対する支援事業所の対応等
 厚生労働省は、27年度改定に当たり、新たに特定事業所集中減算の適用を受ける可能性がある支援事業所が実際に特定事業所集中減算の適用を受けることとなった場合における当該支援事業所の減収額については、試算していなかったとしている。そこで、会計検査院が、前記の24年度後期及び25年度前期のいずれの判定期間においても集中割合が80%超90%以下となっている306事業所について、仮に特定事業所集中減算の適用を受けることとなった場合における介護報酬の減収額を試算したところ、1事業所当たりの平均で、介護報酬が14.4%減額され、1年間で312万余円の減収になるという結果となった。また、306事業所のうち193事業所については特定事業所加算の請求が認められているが、これらの193事業所が特定事業所集中減算の適用を受けることとなった場合には特定事業所加算を算定できなくなることから、これに伴う減収分も合わせて試算すると、1事業所当たりの平均で、介護報酬が34.6%減額され、1年間で961万余円の減収になるという結果となった。
 また、27年度改定を踏まえた対応方針について回答した132事業所のうち66事業所(50.0%)は、集中割合が80%以下となるように集中割合の調整を既に行っているか又は今後行うことを検討していると回答しており、27年度改定は、ケアマネジメントの公正・中立の確保を推進するものとはならないおそれがある状況となっていた。
 上記調査の過程では、ケアマネジャーから、[1]個々の利用者の人格を尊重し、利用者の立場に立って居宅サービス計画を作成した結果として集中割合が高くなる場合があることなどを踏まえると、特定事業所集中減算のケアマネジメントの公正・中立を確保するための制度としての有効性については疑問がある、[2]ケアマネジメントの公正・中立を確保するためには、ケアマネジャーの地位の安定・向上を図ることが不可欠である、[3]特定事業所集中減算の適用を受けることにより特定事業所加算を算定できなくなる場合には、特定事業所加算を算定するための要件である常勤の主任介護支援専門員の配置、24時間連絡体制の確保等のケアマネジメントの質の向上に対して消極的となる支援事業所が増えるおそれがあるなどの意見があった。一方で、特定事業所集中減算はケアマネジメントの公正・中立を確保する制度として有効であるという意見もあった。
 以上を踏まえると、集中割合に一定の基準を設け、これを正当な理由なく上回る場合には介護報酬を減額するという特定事業所集中減算は、ケアマネジメントの公正・中立を確保するという所期の目的からみて、必ずしも合理的で有効な施策であるとは考えられず、むしろ一部の支援事業所においては、集中割合の調整を行うなどの弊害を生じさせる要因となっていると考えられる状況となっていた。

3 検査の結果に対する所見
(2)介護サービス等の実施状況について
イ 特定事業所集中減算とケアマネジメントの公正・中立の確保について
 厚生労働省において、ケアマネジメントの公正・中立の確保に関する各方面の意見等について十分に把握するとともに、十分な検証を行った上で、ケアマネジメントの公正・中立を確保するための合理的で有効な施策の在り方等について、特定事業所集中減算の見直しも含め、十分に検討すること