ちょっと見られない言葉と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、ここでは、
法が「誰か」の権利を保護している結果として、別の人が受けている利益を「反射的利益」と呼びます。
本来保護されるべき「誰か」の権利とは違い、反射的利益が侵害されたとしても法の保護を受けることはできません。
本来保護されるべき「誰か」の権利とは違い、反射的利益が侵害されたとしても法の保護を受けることはできません。
多少無理気味の設定
A男さん(要介護2)
B子さん(要支援2)
夫婦2人暮らし。老齢基礎年金2人分で月額13万円余りの収入。
遠方にいる娘さんからの若干の仕送りを足して、生活費をやりくり。
あるとき、財政の徹底的な健全化を訴えた人物が、その自治体の首長に当選しました。
「給付抑制は民意である」として、
・要支援者には給付しない
・要介護者も軽度(この場合、要介護2以下)なら、訪問介護の生活援助は2割の利用者負担とする
という条例を制定しました。
(現実的ではない設定ですが、仮定の話として。)
その結果、B子さんは予防訪問介護などの給付がなくなり、A男さんも利用者負担が重くなります。
娘さんは仕送りを増やし、自分の生活に余裕がなくなります。
彼女は親孝行な美女ですが、大酒のみで、これまでは頻回に飲みに行っていました。
けれど、外飲みを控えたので、行きつけの店の売り上げが減少しました。
A男さんやB子さんは、介護保険法で認められている正当な権利を侵害されたとして、首長に対して法的に戦うことができます(最終的には訴訟)。
ですが、娘さんの行きつけの店の主は、この件について法的に保護される権利を有していません。
「顧客の親が介護保険から給付を受ける権利」によって、たまたま顧客が頻回に飲みに来ることができた、というだけです。
店主の場合は、反射的利益ということになります。
「自立生活支援のための見守り的援助」は誰のためのものか
A男さん夫婦が訴訟を起こす前に、リコール運動が起き、選挙等の手順を経て、新しい首長が就任しました。
前首長の人気に目がくらんで違法な条例制定に加担した議員も一掃され、条例は廃止。
A男さん夫婦は元どおり給付が受けられるようになりました。
ですが、B子さんに認知症の兆しが見られるようになり、次の認定では要介護1になりました。
かかりつけ医だけでなく精神科医の意見も確認した上で、B子さんが調理するのをヘルパーが支援することになりました。
平成12年老計第10号の1-6で示されている
「自立生活支援のための見守り的援助(自立支援、ADL向上の観点から安全を確保しつつ常時介助できる状態で行う見守り等)
・利用者と一緒に手助けしながら行う調理(安全確認の声かけ、疲労の確認を含む)」
です。
B子さんは、自分の食事だけでなく、A男さんの分も作ります。
では、夫が要介護(支援)者でない場合はどうでしょうか?
上に比べて、判断が分かれる度合いが大きいように思います。
私の考えでは、可能です。
・B子さんの認知症の進行を抑え、彼女の意欲をかき立てる効果がある目標設定と認められること。
・夫の食事の分が増えたからといって調理時間(サービス提供時間)や彼女の心身の負担が合理的な範囲を超えて増大するものではないこと。
という条件を満たせば。
(簡単に言えば、本人のやる気につながり、ついでに作れる範囲なら。)
1)介護保険からの給付により第三者が反射的利益を受けてはいけない。
あるいは、
2)第三者が反射的利益を受ける場合には受益者負担を徴収すべきである。
そういう規定も、理念も、介護保険法からは読み取れません。
1や2のような規範があるなら、たとえば、通所サービスの機能訓練で作った小物などを、利用者が孫にプレゼントする行為も不可ということになります。
ただし。
このように第三者が受けるのは、あくまで反射的利益ですから、法的にはこれっぽっちも保護されていません。
計画に変更が必要な場合、たとえば要介護者の最善は施設入所と考えられる場合に、残された家族が家事ができなくて困るから、というような理由で「自立生活支援のための見守り的援助」を続けようとするのは本末転倒です。
援用(もしくは蛇足)
ということで、要介護者夫婦それぞれに生活援助が必要な場合には、その都度きっちり按分しなくてもかまいません。
たとえば、夫婦で週2回程度の生活援助が必要なら、
月曜:夫に生活2、木曜:妻に生活2
としてOK。
月曜:夫に生活2+妻に生活2、木曜:夫に生活2+妻に生活2
とする必要はありません。
(※生活2=生活援助30分以上1時間未満)
さらに、
共用部分の掃除は夫も妻も利益を受けるから、それぞれの計画で生活援助を位置づけなければならない。
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/29987866.html
という変わった保険者も世の中にはいるそうですが・・・
要介護者がいて、本人はもちろん、同居家族が「障害、疾病等のため」共用部分の掃除が困難なら、当該要介護者へのサービスとして掃除を位置付けることは可能です。
「障害、疾病等のため」掃除が困難な同居家族というのは、たしかに結果として介護保険から利益を受けていますが、反射的利益に過ぎません。
もし、反射的利益まで制限する、というより受益者負担を求めるのなら、同居の障害者や病人にまで費用負担を求めることになってしまいます。
(ただし、障害者が同居の場合、障害福祉サービスによる「法的に保護された」支援が必要でないか、留意する必要はあります。)
以上、設定は無理気味、法律用語の使い方も厳密には問題があるかもしれませんが、複数の要援護者がいる世帯に対する支援ついて、考える参考にしていただければ幸いです。
(記事中の人物に特定のモデルはありません。)