池田氏の「遺言」の誤り(上)

介護保険への遺言(上)龍谷大学名誉教授・池田省三
(2013.3.26 03:08 MSN産経ニュースより、抜粋)

--次期改正の課題は何でしょうか?

 池田 本来の意味での「介護」をほとんど必要としない「要支援1」「要支援2」の人が使う予防サービスの見直しです。このサービスには4500億円近くがあてられている。しかし、「介護給付費実態調査報告」を分析すると、状態が改善されているようには見えない。悪化させている可能性すらある。市町村の保健事業にきちんと位置付けて予防リハビリをしたり、廃用症候群につながる高齢者の引きこもりにコミュニティー全体で取り組んだりしないと機能しない。真剣に考えないといけません。

 --予防サービスが介護保険から外れると、困る人もいるのでは

 池田 予防サービスで多いのは食事作りと掃除です。ですが、要支援1の認定者のうち、サービスを使わない人は4割超です。同程度の状態で介護保険を申請しない人も100万人と推定されます。サービスを使わない理由を国民生活基礎調査で見ると、「家族や自分でできる」との回答です。介護度が軽い人で家事援助が必要な人はいるけれど、多くは必要ない。しかし、保険だと利用が拡大しがちです。必要な人には自治体の配食・会食サービスでもできる。数百円で食事を提供できるのに、介護保険で調理に2千円をかけるのは支え合いの仕組みとしては適切とはいえません。効率化してより重い人にサービスを集中すべきです

 --家事援助は自立を支援するとの意見も、軽度認知症の人には見守りになるとの意見もあります

 池田 「要支援」の人の認知症の日常生活自立度は「自立」と「I」がほとんど。日常の支えが必要な「IIa」「IIb」はわずかです。軽度認知症の人にはむしろ、単身者に地域で見守りのある住まいをどう用意するか、などが重要だと思います。

 --予防サービスで高齢者の生活は活性化するという見方もできます

 池田 家事援助のヘルパーが話し相手になり、高齢者の孤独感を癒やす効果はあるかもしれない。通所サービスでも、お年寄りが集まっておしゃべりしたり、楽しんだりなどの要素が重要なことは間違いない。しかし、それは介護保険の給付対象なのでしょうか。本来、地域に求められる役割ではありませんか。地元の商店・コンビニなどの協力も得て、高齢者の居所をつくる。訪問ボランティアを支援する。市町村がそういったコミュニティーを再構築して互助(助け合い)の仕組みをどう作るかです。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130326/trd13032603090000-n1.htm


 
池田省三氏については、社会保障審議会の部会等での発言について、当ブログでも何度か取り上げてきました。
部分的には正しい発言もありますが、要支援など軽度者を介護保険の給付から外そうとする主張については、かなりゴリ押しで、誤りも少なくない、というのが私の印象です。
今回の産経記事も、「中」「下」については妥当な主張もあると思います。
が、この「上」については、やはり問題点を指摘しておくべきでしょう。
 
こちらの記事からのシリーズで触れましたが、
 
要介護(支援)認定を受けた人たちの中でも、少なくない割合が軽度に移行しています。
要支援者の中で介護保険のサービスを利用していない人が(要介護者よりは)多いのは事実ですが、
介護予防通所リハビリなどで本人も含めた努力により維持改善を果たしている人がいるのもまた事実です。
 


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「介護予防訪問介護や介護予防通所介護介護保険の本来の役割ではない」とする同氏の主張自体、適切とは言い難いものですが、それは別にしても、要支援者を介護保険から除外すると、介護予防通所リハビリもなくなってしまうことになります。
病院から在宅復帰した人たちがこのサービスでリハビリに励むというのは、まさに介護保険の理念の重要なひとつだと思いますが、これも外してしまえというのでしょうか。
総費用のわずか5%余りの節約のために。
(参考)
 
さらに、住宅改修。
これについても以前に書きました。


手すりの設置や段差解消など、住宅改修には、比較的軽度者に効果が高いものがあります。


最大でも20万円(うち公費は18万円)という投資によって、家族やヘルパーなどの手助けがなくても日常生活を送ることができる可能性が広がる、費用対効果が高い給付です。
ですから、一般的には、自力で動ける軽度の間の利用が多く、逆に寝たきりになってしまうと必要性は低くなると考えられます。

また、優れた地域ケアスタッフ(ケアマネに限らず、PT、OT、さらには知識と良心とを兼ね備えた住宅施工業者など)が関わった改修工事は、比較的重度になってもその効果が持続される場合も少なくありません。


 
同氏の「要支援外し」には、こういう視点が全く欠けています。
 
また、要支援2には(理念上は)認知症の方はいませんが、要支援1には普通に存在する可能性があること、
高齢者ケアを地域や家族だけに押しつけてきた社会ではうまく行かなくなったから介護の社会化が制度化されたことについても、指摘しておきます。
 
(つづく)