訪問介護の報酬改定案の問題点

以前にも書きましたが、令和6年度介護報酬改定案の、特に訪問介護の基本単価減については問題があります。
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2024/01/23/212822

 

1 収支差率(+7.8%)は正しいか?

 

訪問介護の基本単価については、2.4%(身体介護20分未満、同20分以上30分未満)から2.02%(通院等乗降介助)のマイナスという厳しい案となっています。
これは、単純平均すると2.33%のマイナスですが、実際の算定状況(令和4年度介護給付費等実態統計の令和4年5月~令和5年4月審査分)に当てはめると2.37%のマイナスとなります。

厚生労働省は、令和5年度介護事業経営実態調査で訪問介護の令和4年度決算の収支差率が高かった(+7.8%)ことを理由にしているようですが、この調査の数値が正しいかどうかが、まず疑問となります。

この調査は、令和5年5月に実施され、対象サービスごとに、層化無作為抽出法により抽出されています。訪問介護では調査客体3,105事業所に対し、有効回答数が1,311で、有効回答率は42.2%です。

50%を切っており、回答率が高いとはいえませんが、全サービスの平均が48.3%であり、訪問介護だけが飛び抜けて低いとはいえません。
ただ、調査時は、ちょうど新型コロナが2類から5類に変わったばかりの頃で、感染者や濃厚接触者等に対する通所サービスなどの提供制限の中、在宅要介護者等を懸命に支え続けてきたヘルパー等(管理者やサービス提供責任者を含む)が疲弊し、調査の回答に応じる余力がなかった事業所が少なくなかったかもしれません。
人員の少ない零細事業所等は回答する余力がなく、「同一建物等への訪問を主戦場とする」全国的な大手事業所が高率で回答したという可能性もあります。

ただ、この件について、明確な根拠により主張するのは難しそうです。

 

2 同一建物減算の有無について

 

社会保障審議会介護給付費分科会(令和5年11月16日)の参考資料2に、同一建物減算の算定有無別の収支差率が示されています。

 

 

同一建物減算「算定あり」の方が収支差率がよいものが目につきますが、訪問看護のように「算定なし」の方がよいサービスもあります。
訪問介護では、「算定あり」が9.9%、「算定なし」が6.7%で、有料老人ホームやサ高住等を主戦場とする「算定あり」の方が3.2ポイントも高くなっています。
「算定なし」の訪問介護でも6.7%というのは高率の方ですが、訪問看護の「算定なし」(6.0%)に比べて特別に高いわけではありません。
また、訪問リハビリは「算定なし」でも9.1%という高い収支差率ですが、訪問リハビリも訪問看護も基本単価はマイナスにはなっていません。

ちなみに、訪問介護の同種サービスといえる障害福祉サービスの居宅介護は、収支差率6.9%ですが、微増レベルとはいえ、基本単位が増額にはなっています。

 

これらのサービスと比較すると、訪問介護のうち、少なくとも「同一建物減算の算定なし」のカテゴリーについては、基本単位をマイナスとすることは著しくバランスを欠くといえるでしょう。

なお、同一建物減算の減算率等の見直しの必要性については否定しません。

 

3 介護職員等処遇改善加算について

 

訪問介護の基本単位減についての厚生労働省の「言い訳」に、介護職員等処遇改善加算で従来の加算を統合し、大幅にプラスにしている、というものがあります。

令和6年6月改定分では、介護職員処遇改善加算(最上位の(I)は137/1000)、介護職員等特定処遇改善加算(同じく(I)は63/1000)、介護職員等ベースアップ等支援加算(24/1000)に替えて、介護職員等処遇改善加算(最上位の(I)は245/1000)が新設されます。
単純に計算すれば、最上位算定の場合で、
<現在> (137+63+24)/1000=224/1000
<改定後> 245/1000
ということで、21/1000=2.1%のプラス、となります。

 

しかしながら、これらの加算率は、「イからトまでにより算定した単位数」(要するに、この処遇改善関係加算以外の全報酬)に掛けて算定されます。
訪問介護の場合、ほとんどの加算が基本単位数に対する掛け算で算定されるので、この処遇改善関係加算も目減りします。
たとえば、仮に基本単位の減少分を2.33%とし、現在の処遇改善関係加算が最上位算定で、それ以外の収入が100万円の事業所の場合

<現在> 100万×22.4%=224,000
<改定後> 100万×(100%-2.33%)×24.5%=239,292

ということで、処遇改善関係加算では現在よりも15,000円余り(1.5%余)しか増えません。
それ以外の収入(基本単位やそれに連動する加算)は、
100万×(100%-2.33%)=976,700
となるので、事業所全体としては、
(976,700+239,292)-(1,000,000+224,000)=△8,008(0.8%余) の減収となります。

 

4 その他

 

訪問介護は人件費の占める割合が大きいですが、「訪問業」なので、自動車の維持費用(ガソリン代、車両の点検、修理や更新費用など)も馬鹿になりません。
これらの費用も、令和4年度の決算時点よりも高騰しているはずです。

 

5 結論

 

訪問介護の基本単位のマイナスは不適当。
介護職員等処遇改善加算によるヘルパーの収入増も、国が主張するほどの効果はありません。