怖い話

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の本文を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?

私は<認知能力が衰えた後でも、出来る限りそれ以前と同様に金融サービスを享受できる環境作りの推進>など、必要な(ある意味、当たり前の)ことがまとめられていると思いました。

麻生大臣などが嫌がっている表現は、たとえば

<高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円>となっている。<この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填する>こととなる。

前述のとおり、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は<単純計算で>1,300万円~2,000万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。<重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。>

といったあたりではないかと思いますが、これは厚労省社会保障審議会などでまとめられたものではなく、金融庁の審議会での議論であることを考えれば、「受取拒否」のような大人げないことをしなければならないほどのものではないと思います。

あくまで「単純計算で」出された不足額であり、
<重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、(自分たちでも)考えてみること>
というのは、もっともであると思います。

ただ、私も、その「単純計算」の計算例が、そのまま社会保障などでの議論に直結するものではないとは思います。
たとえば、金融資産から支出に回したお金が、こんな感じだったとします。

Aさん:1億円
Bさん:1,000万円
Cさん: 300万円
Dさん: 300万円
Eさん: 300万円
Fさん: 100万円
合計1億2,000万円
 平均 2,000万円

Aさんは預貯金など金融資産が豊富なので、30年間の「老後生活」の中で1億円を使って贅沢したとしても生活基盤はびくともしません。
Bさんは、Aさんほどではありませんが、定年退職後に夫婦で海外旅行に行くなど、それなりに支出は行います。
Cさん、Dさん、Eさんは、だいたい年金収入で暮らしていきますが、イレギュラーな出費で300万円を使いました。
Fさんは、さらに預貯金が少なく、つましい生活を送ります。
この6軒(6世帯)の平均としては、2,000万円の金融資産を取り崩して費消した、ということになります。
が、Aさん、Bさんは、金融資産に余裕があるから使ったのであって、Cさんたちのように300万円あれば、普通の老後生活が送れた、ということになるかもしれません。

そういう考え方で行くなら、金融庁の審議会のワーキング・グループの報告書に「単純計算で1,300万円~2,000万円」不足する、と書いてあり、その仮定を前提に議論が進んでいたとしても、年金政策との整合性を追求するのは、いささかながら的はずれの感もあります。

ただし。
あえていうなら、このおおもとの家計調査報告の中には、ちょっと怖いところがあります。

これまでの議論は、「高齢夫婦無職世帯の家計収支」で、世帯平均月額54,519円不足する、ということが前提になっています。

ところが、これからは、生涯未婚率の上昇、高齢単身世帯の増加が予想されています。
で、家計調査報告に、「高齢単身無職世帯の家計収支」も出ています。


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夫婦世帯と単身世帯とを比較するために、比率だけでなく実金額も表示してみました。
食料費など単身世帯が夫婦世帯の半分程度で済むものがありますが、住居費のように差が小さいものもあります。
要するに、単身世帯の方が夫婦世帯より(1人あたり生活費が)高くつく傾向にあります。

そして、高齢単身無職世帯の不足額は、40,715円。
高齢夫婦無職世帯の不足額が、世帯で54,519円ですから、1人あたりで27,000円あまり。
つまり、高齢者のうち、単身世帯率が高くなると予想されるので、生活困窮率も高くなるのではないか。

これも、あくまで単純計算での平均ですから、この数値を基に社会保障について議論を進めるのは無理があるかもしれませんが、怖い話であることは間違いないと思います。

まあ、何がいちばん怖いかといえば、自分たちの思いどおりの報告書でないからといって受取を拒否する大臣の存在だろうとは思いますが。