報告書本文2

(2)収入・支出の状況

ア.平均的収入・支出
 わが国では、バブル崩壊以降、「失われた20年」とも呼ばれる景気停滞の中、賃金も長く伸び悩んできた。年齢層別に見ても、時系列で見ても、高齢の世帯を含む各世代の収入は全体的に低下傾向となっている。公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後もこの傾向は一層強まることが見込まれる。
 支出もほぼ収入と連動しており、過去と比較して大きく伸びていない。年齢層別に見ると、30代半ばから50代にかけて、過去と比較して低下が顕著であり、65歳以上においては、過去と比較してほぼ横ばいの傾向が見られる。
 60代以上の支出を詳しく見てみると、現役期と比べて、2~3割程度減少しており、これは時系列で見ても同様である。
 しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、<高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円>となっている。<この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填する>こととなる。

イ.就労状況
 わが国の高齢者は総じて元気である。これは、他国に比して、また過去と比較しても当てはまる。<2016年においては、65歳から69歳の男性の55%、女性の34%が働いており、これらの比率は世界でも格段に高い水準>となっている。
 体力レベルを見ても、現在の高齢者は過去のわが国の高齢者と比較して高い水準にある。また、アンケート結果では、60歳以上で仕事をしている者の半数以上が70歳以降も働きたいと回答している。
 思考レベルも高い。現在、60歳から69歳でインターネットを使っている人は全体の4分の3にのぼるほか、OECDの調査によれば、<60歳から65歳の日本人の数的思考力や読解力のテストのスコアはOECD諸国の45歳から49歳の平均値と同じ水準>となっている。
 こうした現状を踏まえれば、高齢者の就労継続は今後も続くのではないかと考えられる。
 他方、若年層を中心に働き方は多様化している。最近では、転職はもちろんのこと、副業という形態で、個人が複数の仕事を持つという形式は増えつつあるし、企業や組織に属さず働く、いわゆるフリーランスという働き方も増加してきている。
 このように多様なスキルを身につけ、そのスキルを生かしながら、一つの企業に留まらず働くということは、長く働き続けることができる可能性を高めうる。その一方、退職金が一定の勤続年数に応じて発生する又は勤続年数に比例して増加する形式の場合、転職が多い者や自営業も含め企業や組織に留まらない働き方の者は退職金が受け取れないか、退職金があっても低い水準になる可能性がある。すなわち、<一つの企業に留まらない働き方は、多くの者にとって老後の収入の柱である退職金給付という点で不利な面もある。>

ウ.退職金給付の状況
 わが国に根付いてきた賃金制度として、退職給付制度がある。かつては退職金と年金給付の二つをベースに老後生活を営むことが一般的であったと考えられるが、公的年金とともに老後生活を支えてきた退職金給付額は近年減少してきている。この退職金の推移について詳しく見ていくと、退職金給付制度がある企業の全体の割合は徐々に低下をしており、2018年で約80%となっている。
 この割合は企業規模が小さくなるにつれて小さくなる。
 また、定年退職者の退職給付額を見ると、平均で1,700万円~2,000万円程度となっており、ピーク時から約3~4割程度減少している。
 今後見込まれる雇用の流動化の広がりを踏まえると、<退職金制度の採用企業数や退職給付額の減少傾向が続く可能性がある。>退職金制度の有無、その給付金額は退職後の生活に大きな影響を及ぼしうるため、自身の退職金の見込みや動向については、早い段階からよく確認しておく必要がある。
 退職金を受け取った後に関するアンケート調査によれば、4人に1人が投資に振り向けており、また、投資に振り向けた人の半数弱は退職金の1~3割を投資に回している。
 他方で、<退職金の給付額を把握した時期について、約3割が「退職金を受け取るまで知らなかった」、約2割が「定年退職半年以内」と回答している。>
 退職金の金額の大きさを踏まえると資産運用に回す金額は多額であると言えることから、こうした投資を行う際には、運用方針や資産運用にあたって必要な金融に関する知識を、事前にある程度は身につけてから臨むことが望ましいと言える。

(3)金融資産の保有状況

 金融資産の保有状況は各人により様々であることから、平均的な姿をもって一概に述べることは難しい面があるが、全体的な傾向として、若年層よりもシニア層の方が全体に占める金融資産の保有割合が高く、この傾向は今後も続く見込みである。また、若年層は住宅ローンなどの負債を比較的多く抱えている。
 老後の生活においては年金などの収入で足らざる部分は、当然保有する金融資産から取り崩していくこととなる。<65歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯、単身男性、単身女性のそれぞれで、2,252万円、1,552万円、1,506万円となっている。>なお、住宅ローン等の負債を抱えている者もおり、そうした場合はネットの金融資産で見ることが重要である。
 (2)で述べた<収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる。>
 支出については、<特別な支出(例えば老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用など)を含んでいないことに留意が必要>である。さらに、仮に自らの金融資産を相続させたいということであれば、金融資産はさらに必要になってくる。(2)と合わせ、<早い時期から生涯の老後のライフ・マネープランを検討し、老後の資産取崩しなどの具体的なシミュレーションを行っていくことが重要>であるといえる。
 なお、米国では75歳以上の高齢世帯の金融資産はここ20年ほどで3倍ほどに伸びている一方、わが国の同年代の高齢世帯の金融資産はほぼ横ばいで推移しており、対照的な動きとなっている。米国では、市況が好調だったことに加え、401(k)プラン等の制度的な後押しもあり、現役期から資産形成を実行し且つ継続するとともに、そのような世代が歳を重ねるに従い、高齢世帯の資産が増加していったと推察される。この点、わが国でも後述するつみたてNISAやiDeCo等が整備され、個人が長期の資産形成を行うに際して、制度的な環境が整いつつある。

(つづく)