報告書本文3

(4)金融環境に対する意識

 では、こうした環境変化に対応して、国民は老後の生活をどのように意識しいるか。内閣府が実施した世論調査では、「老後の生活設計を考えたことがある」と回答した人は、全体で67.8%となっており、60代をトップに30代以上では軒並み50%以上となっている。また、「ある」と回答した人に対して考えたことがある理由は何かを問うたところ、多数を占めた回答が「老後の生活が不安だから」であり、多くの人が老後生活に不安を抱えている現状がわかる。
 <他のアンケート調査でも、「老後に対する不安がある」と答えた比率が高い傾向>があり、50代以下の世代では、老後に対する不安要因として「お金」が挙げられていることが多い。また、世代を問わず老後の備えとして自ら想定する金額と現在の金融資産額(平均)との間に大きく差額が生じているとするアンケート結果もある。こうしたことから、老後の不安として「お金」が主要要因となっていることが窺える。
 では、こうした老後の資金の不安に対して、どのように対処すればよいと考えているか。<資産寿命【2】を延ばすために必要なことを尋ねた調査によれば、「現役で働く期間を延ばす」、「生活費の節約」を挙げる回答が多いが、このほかに約3割の者は「若いうちから少しずつ資産形成に取り組む」を挙げている。>

【2】 資産寿命とは、「生命寿命」や「健康寿命」と関連して、老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間。資産寿命が尽きた後は年金等のフローの収入のみで生活を営んでいくこととなる。

 他方、別の調査では<「老後に向け準備したい(した)公的年金以外の資産」として「証券投資(株式や債券、投資信託など)」を挙げた者は2割以下に留まり、実際に投資を行っている者の割合はこれよりもさらに低い水準となっていることが予想され、>意識と行動に乖離があることが窺える。投資による資産形成の必要性を感じつつも、投資を行わない理由として上位を占めているのが、<「まとまった資金がない」、「投資に関する知識がない」、「どのように有価証券を購入したらよいのかわからない」という回答>であり、顧客側の問題に加え、金融機関側が顧客のニーズや悩みに寄り添いきれていない状況が窺える。

2.基本的な視点及び考え方

 以上が高齢社会を取り巻く環境変化についての現状整理であるが、ここから、高齢社会における金融サービスに関して、個々人及び金融サービス提供者の双方が共に認識することが望ましい事項が導き出されるのではないかと考えられる。以下、その事項について述べる。

(1)長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要

 前述のとおり、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は<単純計算で>1,300万円~2,000万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。<重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。>それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。

(2)ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々

 かつて高齢者の世帯形態は親、子、孫という三世代が同居する世帯が多数を占めていたが、最近では夫婦のみの世帯や単独世帯の割合が増加しており、三世代が同居する世帯はむしろ少数派となってきている。特に単身世帯の増加は著しい。働き方も柔軟化し、終身雇用や年功序列といったこれまでの雇用慣行も変わりつつある。かつて「一億総中流」と呼ばれた日本社会であったが、前述のとおり、保有資産や所得等の状況はバラつきが見られるようになってきている。こうした変化は、個々人の行動にも大きく影響を与えているものと考えられる。
 このようにライフスタイルが多様化する中では、個々人のニーズは様々であり、大学卒業、新卒採用、結婚・出産、住宅購入、定年まで一つの会社に勤め上げ、退職後は退職金と年金で収入を賄い、三世帯同居で老後生活を営む、というこれまでの標準的なライフプランというものは多くの者にとって今後はほとんどあてはまらないかもしれない。今後は自らがどのようなライフプランを想定するのか、そのライフプランに伴う収支や資産はどの程度になるのか、個々人は自分自身の状況を「見える化」した上で対応を考えていく必要があるといえる。

(3)公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動

 人口の高齢化という波とともに、少子化という波は中長期的に避けて通れない。前述のとおり、近年単身世帯の増加は著しいものがあり、未婚率も上昇している。公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続けることは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していくことを踏まえて、年金制度の持続可能性を担保するためにマクロ経済スライドによる給付水準の調整が進められることとなっている。こうした状況を踏まえ、今後は年金受給額を含めて自分自身の状況を「見える化」して、自らの望む生活水準に照らして必要となる資産や収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる【3】。

【3】 この他、企業年金などの充実も、老後収入の確保という視点から、重要な視点である。

(つづく)