報告書本文1

それでは、 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の本文を。
なお、<色付き>部分は、引用者が加工したものであるほか、脚注の表記などレイアウトを変更した部分があります。


1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)
(1)人口動態等

ア.長寿化
 冒頭でも述べたとおり、日本人は年々長寿化している。1950年頃の男性の平均寿命は約60歳であったが、現在は約81歳まで伸びている。現在60歳の人の約4分の1が95歳まで生きるという試算もあり、まさに「人生100年時代」を迎えようとしていることが統計からも確認できる。
 寿命に関連して、「健康寿命」【1】という概念があるが、この健康寿命は、男性で約72歳、女性で約75歳である。<平均寿命から考えると9~12年は、就労が困難など、日常生活に何らかの制限が加わる形で生活を送る可能性>がある。日常生活に制限が加わるということは、金融面でいえば、<就労の困難化に伴う収入の減少>
や、<介護費用など特別の費用がかかることによる支出の増大>といった家計の影響のほか、<金融機関の窓口へ出向くことが困難になるなど円滑な金融サービスの利用にも支障が出るようになる>ことから、この健康寿命と平均寿命の差を縮めていくことが重要である。

【1】 寿命において健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間(平成26年版厚生労働白書)。

イ.単身世帯等の増加
 わが国の人口動態の特徴として、長寿化に加えて、少子高齢化が挙げられる。人口ピラミッドで見ると、かつては「富士山型」であったものが、現在は「つぼ型」であり、今後も「つぼ型」の形状は変わらず、高齢者が若年者に比べて突出して多いという姿になることが見込まれている。
 人口構成が「富士山型」であった頃の家族形態は、親と子の世帯や祖父母を含めた三世代世帯が多かった。しかし、最近では、少子化等を背景として夫婦のみの世帯が割合を伸ばすとともに、未婚率の上昇やライフスタイルの多様化と相まって、近年単身世帯もその割合を急速に伸ばしている。少子化や晩婚化の動向を踏まえると、今後もこうした傾向は続くものと思われる。
 また、かつては持ち家があることが当たり前であったが、持ち家比率も60歳未満は低下が著しい。
 結婚後、夫婦と子供、親と同居し、持ち家を持ち、
<老後の親の世話は子供がみるというようなかつて標準的と考えられてきたモデル世帯は空洞化してきている。>

ウ.認知症の人の増加
(略)
 加齢とともに認知・判断能力が低下し、心身の機能が衰えていくことには個人差はあるものの誰にでも起こる現象である。これに起因する金融サービスにおける制限は多岐に渡るが、その一つに<資産の管理が自由に行えない点>が挙げられる。資金の自由な引き出しはもちろん、これまで資産運用を行ってきた場合でも、<認知・判断能力に問題があり、本人意思が確認できないと判断された場合には一定の制限がかかりうる。>
 認知・判断能力に支障がある者や障害者の生活や財産を守ることを目的とした制度の一つとして、成年後見制度がある。成年後見制度の利用は、同時期に制度がスタートした介護保険制度に比べると、現状低調であるものの、国が策定した成年後見制度の利用を促進する計画に基づく環境整備が進んでおり、<認知症の人も含めて、今後、成年後見制度を利用する者が増加することが予想される。>後述する個人の金融資産の大半を高齢者が保有する状況に鑑みれば、同制度の利用増加に伴い、<同制度の枠組みに入る金融資産が大きく増加していくことが想定される中、これらをどう管理していくかは重要な課題の一つ>と言える。

(つづく)