一人の戸籍ができて終わりではない

32年間無戸籍の女性 戸籍取得へ

(NHK 9月18日 19時19分)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140918/k10014704401000.html

母親が出生届を出さず、32年間戸籍がないまま制約があるなかで暮らしてきた女性が18日、神戸家庭裁判所で、母親の前の夫と親子関係がないことを確認する判決を受けました。
これにより、女性は近く母親の子として出生届を出し、戸籍を得られる見通しになりました。

関東に住む32歳の女性は、母親が前の夫の暴力を理由に別居していた期間に、母親と別の男性との間に生まれました。
当時、母親は前の夫と離婚が成立しておらず、女性の出生届を出すと民法の規定で前の夫の子として戸籍に入ってしまうため、出生届を出しませんでした。
このため、女性は32歳になる現在まで戸籍がない状態で、運転免許を取得したりアパートを借りたりすることができない生活が続いていました。
女性が母親の子として戸籍を得るためには、母親の前の夫と親子関係がないことを裁判などで確認する必要があり、女性は18日、神戸家庭裁判所で申し立てを認める判決を受けました。
これにより、女性は近く出生届を出し、戸籍を得られる見通しになりました。
女性は「32年間とても長かったのでうれしいです。戸籍がないことで諦めてばかりでしたが、これからは日本国民として堂々と生きていきたいです」と話していました。
また、南和行弁護士は、「同じような境遇の人にも希望を与えられたのではないか」と話していました。

えっと、ここまでは・・・「めでたしめでたし、長い間大変だったけどよかったですね」みたいな感じですが、
NHKでは、このようにあります。(太字強調は引用者が行いました。以降も同じです。)

女性が母親の戸籍に入るには、裁判や調停で夫と親子関係がないことを証明する必要がありますが、夫に居所を知られるおそれがあるとして、これまで訴えを起こすこともできなかったといいます。
しかし、ことしになって夫が死亡していたことが分かったため、ようやく訴えを起こすことができたということです。

ということは、夫が生きていたら、まだ訴えが起こせていなかった、ということですね。

NHKでは、このように続いています。

法務省は実態把握進める

32年間戸籍がないまま暮らしてきた女性の存在が明らかになったことをきっかけに、法務省は全国の自治体などと連携して、戸籍を取得するための支援や実態の把握を進めています。
総務省によりますと、親の離婚などが原因で出生届が出されず、戸籍がない状態だと分かる人は毎年500人以上に上りますが、詳しい実態は明らかになっていません。
法務省はことし7月、戸籍の取得を支援するための対応策を策定し、全国の自治体や児童相談所などが無戸籍の人がいることを把握した場合、法務局に戸籍の取得の手続きについて相談するよう促すとしています。
また、法務局に寄せられた相談を集約することで戸籍がない人の実態の把握を進めていて、近く結果がまとまる見通しです。
一方、戸籍がない32歳の女性や支援者が求めている民法の規定の見直しについて、法務省は「規定は親子関係を明確にし、早期に安定させるためのもので合理性がある」として、現時点で見直す必要はないという考えを示しています。

そして、法務省
民法772条(嫡出推定制度)及び無戸籍児を戸籍に記載するための手続等について」では、

Q3-5 元夫のDVが原因で離婚した場合に,裁判所で元夫と顔を合わせなければならないとか,裁判手続を取ることによって元夫に現住所を知られてしまうといった不都合が生じるのではないですか。

A3-5 裁判所の構内で暴力を振るわれるおそれや,現住所が知られることにより生命や身体に危害が加えられるおそれがあると認められる場合などには,調停期日において当事者双方が顔を合わせないように配慮したり,申立書に現住所を記載することを厳格には求めない取扱いをしたりするなど,裁判所において事案に応じた措置が講じられています。このような特別の事情がある場合には,裁判手続の申立ての際に裁判所に申し出てください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji175.html#q3-5

とありますが・・・

これらの法務省の対応が十分か、というと・・・

現行の民法については
「規定は親子関係を明確にし、早期に安定させるためのもので合理性がある」
のかもしれませんが、
いまだに無戸籍の人々が多数、という状態を放置していることは、明らかに合理性がないと思います。

そもそも、出生届が出ていないという状況は、戸籍法違反です。

戸籍法第49条第1項
 出生の届出は、十四日以内(国外で出生があつたときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。

DVからの逃亡者である母子を救済できず、かといって職権で強制的に(現行の民法に基づいたものにせよ)子を戸籍に入れるのでもない、そういう状態は、法務省の怠慢ではないかと私は思います。

どうしても、今の民法上の規定を維持する必要があるのなら、戸籍法を改正し、
たとえば、子ども単独の仮の戸籍を(職権等で)作成する、という方法も考えられます。