高齢化と施設のキャパ

世の中には介護保険施設悪者論、あるいは特別養護老人ホーム(特養)必要悪論というようなものがあるようですが、私はそういう立場にはいません。

ただ、高齢者の増加とともに介護保険施設も増やすべき、という意見には賛成していません。

日本の将来推計人口(平成24年1月推計)を基にグラフを作ってみました。
(各年10月1日現在。ただし、出生中位・死亡中位推計。)
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/sh2401smm.html
 


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2010年から2042年にかけて、65歳以上人口が約930万人増加(+32%)します。
その後は減少に転じ、2060年には、2042年に比べて約41万人減少(△11%)となります。

なお、64歳以下の人口は最初から減少傾向で、1億2千万人を超えていた総人口も9千万人を切る予測です。
実はこちらの方が大きな問題ともいえます。

上の人口推計に、特養利用者数を重ねてみます(地域密着型特養を含む)。
施設サービス利用者数を使う方法も考えられますが、療養型廃止という方向性がどうなるかわからないので、特養のみとしています。
データ出所は、介護給付費実態調査報告(平成22・23年11月審査分)、介護給付費実態調査月報(平成24年11月審査分)です。
 


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仮に、65歳以上人口に対する2012年の入所者比率(16.3%)が継続するなら、
2010年から2042年(ピーク時)にかけて、特養を約18万床増加(+40%)させる必要があります。
(棒グラフ。目盛りは左側。)

ところが、2060年には、2042年に比べて特養は7万床近く少なくて済む計算になります。

需要の増減に伴う供給量の調整は、一般的には訪問サービス、通所サービスの順で行いやすく、入所施設ではかなり難しくなると考えられます。
総人口の減少という厳しい状況の中、頑張って(国民に負担をかけて)特養を増やしたとしても、団塊の世代の死亡などにより入所者は大幅に減少する。
ということは、従来と同じような割合で特養を増やしていくことは、あまり得策(効率的)ではないように思います。

そこで、途中から特養を増やさないという仮定を入れてみました。
折れ線グラフが特養のキャパを2017年推計値で固定した場合の入所者比率です(目盛りは右側)。

介護保険料を払っているから施設に入る権利がある」というのではなく、在宅サービスなどを活用して、どうしても施設が必要な人から優先して入所していただく。
家族はともかく、高齢者本人は施設よりも在宅での生活を望んでいる割合が多いことを考えると、入所者比率がいくらか下がることは、それほど無茶なことではないと思います。
もちろん、在宅生活を支えるための基盤、特に訪問看護など訪問系サービス事業所の整備は必要ですが、入所施設の整備に比べれば、ずっと現実的で効率的ではないでしょうか。

これらの推測には、実はいくつかの穴があります。
たとえば、施設サービスの必要者数は、65歳以上人口よりも75歳以上人口を基に推計すべきかもしれません。
その場合、施設需要のピークは、少し後にずれる可能性があります。

ただ、大雑把なイメージとしては、今後の介護保険を考えるための一助とはなると思います。
少なくとも、「軽度者への給付を削減して重度者のサービスに回すべき」などという粗雑な考え方よりは現実的といえるのではないでしょうか。