介護離職と「介護職」離職

「介護離職ゼロ」目指し、特養増設・待機解消へ
(読売新聞9月24日(木)3時6分配信)

 安倍首相は、先の自民党総裁選の公約で掲げた「介護離職ゼロ」の実現に向け、特別養護老人ホーム(特養)の大幅な整備に乗り出す方針を固めた。

 全面的に介護が必要な入所待機者を、2020年代初めまでに解消することを目標に掲げ、16年度当初予算から特養の整備費用を拡充する。24日の記者会見で、社会保障制度改革の最重要施策として表明する。

 首相の記者会見を踏まえ、政府は、少子高齢化や、労働力人口の減少を食い止める策の検討に向け、経済界や労働界などでつくる「国民会議」を創設する。

 特養の入所待機者は、13年度で全国に約52万人いる。このうち、身の回りの世話が一人ではできず、自宅で待機している「要介護3」以上の約15万人をゼロにすることを目標とする。

 特養を増やす具体策として、政府は、消費増税分を原資とする「地域医療介護総合確保基金」(15年度の介護分で724億円)を財源として活用する。社会保障の財源としては将来、家庭に眠っているタンス預金を掘り起こすことが期待される「無利子非課税国債」の発行が検討される可能性がある。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150923-00050103-yom-pol

いろいろ切り口はあると思いますが、今回は日本経済とからめて考えてみます。

まず、「強い経済」のためには介護離職を減らすことが必要、ということは理解できます。
(離職ゼロは・・・目標としてはともかく、さすがに現実的ではないように思います。さまざまな状況があるので。)

介護離職を減らさないと「強い経済」は困難


問題は、介護スタッフ(介護職員だけでなく、看護職その他の人材も必要)の確保。
上の読売の記事では、特養の整備については何度も触れられていますが、介護職員の確保については言及されていません。

もっとも、産経新聞の「自民党総裁再選会見」(9月24日(木)20時20分配信)では、
介護離職ゼロを目指して、介護施設の整備や介護人材の育成を進め、在宅介護の負担を軽減する。
という表現になっています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150924-00000562-san-pol

それにしても、特養など施設整備が主で、介護スタッフの確保は二の次という印象は否めません。

介護職離職を食い止めずに介護離職ゼロは無理


もちろん、介護職離職者を(質量ともに)大幅に上回る新規就職者が確保できればよいのかもしれませんが、これも現実的ではありません。

どうせなら、特養整備に使う財源を、人材確保(具体的には在宅サービスも含めた介護報酬)に回した方が効率的でしょう。

経済にとって効率的な金の使い方とは


ここから、かなり大雑把な話になります。
補助金交付金、介護給付費、その他の社会保障費、なんでもいいですが、公的費用を投入した場合、経済にとって効果が高いのは何でしょうか?

老齢年金、特に経済的に余裕のある高齢者への年金給付は、使われずに経済循環には無関係となる可能性があります。
(低額の年金でぎりぎりの生活をしている人の場合には、ほぼ全額が生活費として使われるので「死蔵」にはなりません。)

医療費や介護費は、その業界で働いているスタッフに回る部分が必ずあります。
特に介護業界は比較的低収入のスタッフが多いとすれば、かれらの給料は生活費として支出される割合が高く、国内の経済循環に回る可能性が非常に高くなると考えられます。
(医療業界は、介護業界に比べれば高収入・・・という話はともかく、医薬品等で国外に流失する部分があるので、介護業界に比べれば効率性は落ちるかもしれません。ただし、就労者の健康を維持するという効果も考えれば、経済にはプラス、という見方もできます。)

特養など施設整備費用は?
建設業界などに支出されるので、経済循環には効果があります。
ただし、建設資材は国外からの調達もあるので、介護スタッフへの給料支払いよりは効率が落ちるとも考えられます。

特養整備より介護スタッフに給料を払う方が効率的


もうひとつ。
介護離職を減らすためには、別の観点も重要です。

特養に入れる(原則)要介護3以上の人だけをなんとかすれば、介護離職はなくなるでしょうか?
健康な高齢者が脳卒中などでいきなり要介護3以上になった場合を除けば、家族介護者の悩みは要支援~要介護2の頃から始まっています。

必要なのは、軽度の頃から本人や家族の相談相手となり得る存在(ケアマネ等)。
そして、軽度の頃から適切なサービスの提供を行うこと。

ここの費用をケチっては、介護の総費用はかえって増加し、介護離職者も減らないでしょう。
ケアマネジメントの有料化も、家族介護者の孤立化を招く恐れがあります。

居宅介護支援の有料化は介護離職者を増やしかねない

軽度者へのサービスもケチってはいけない