役所で机をひっくり返してはいけない

生活保護申請の男が激高、市役所で机ひっくり返す…女性職員は指骨折
(読売新聞 6/16(火) 10:49配信)

 熊本県警は15日、玉名市岱明町、食品販売員の男(44)を公務執行妨害と傷害の疑いで逮捕した。

 発表によると、男は10日午前11時頃、玉名市役所で、生活保護の申請に応対した女性職員(26)に対し、机をひっくり返してぶつけ、左手の小指を骨折する全治4週間の重傷を負わせた疑い。

 県警の調べに対し、「(職員の)説明が理解できず、カッとなった」と供述しているという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/520eebd95918bb22dfaed268a3bb3a84448f9ebc

********************


以前に「役所に行くのに刃物は不要」という記事を書きましたが、
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2020/05/14/213848

今度は刃物がなくても重傷を負わせた来庁者の話です。


ところで、ヤフーニュースでは、一般のコメントの前に「オーサー報告」というのが表示されている場合があります。

この記事に対しては、藤田孝典氏(NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授)が「オーサー」として

 

********************
生活困窮していても、心にゆとりがなくても、説明が難しくても、絶対に暴力に訴えることがあってはならないです。生活保護制度は丁寧に説明しなければ、理解が難しい部分があり、窓口の担当者も工夫をしながら伝えてくれています。
その一方で、相談者を怒らせてしまうケースワーカー、担当者の経験不足も指摘されています。
例えば、厚生労働省(2016)によれば、生活保護担当現業員(常勤)の経験年数は、1年未満が23.6%、1年以上3年未満が38.0%、3年以上5年未満が20.7%、5年以上が17.7%となっています。
ほとんどの福祉事務所では人手不足、異動が横行しているため、経験が蓄積されず、「怒らせない」「相手の立場で話す」などの相談援助スキルが十分と言えない状況もあります。
これからも相談者は全国的に増えていきます。福祉事務所の体制整備が必要です。
********************

 

と述べています。
「絶対に暴力に訴えることがあってはならない」のは、そのとおりです。
福祉事務所の人手不足については・・・私はヤフーブログ時代に「ケースワーカー不足」という記事を書きました。
https://jukeizukoubou.blog.fc2.com/blog-entry-759.html

この記事の数字は、「福祉事務所現況調査」という、2009年10月1日時点の、やはり厚労省の調査を基にしました。このときも散々な都道府県はありますが、100%を上回っている府県もあります。
全国レベルでは、先のオーサー氏が言及している「平成28年福祉事務所人員体制調査」(2016年10月1日時点)では、数値的にはわずかではありますがマシになっています。

総数:89.2→90.4
郡部:100.7→103.5
市部:88.2→89.5

だから、少なくとも「ほとんどの福祉事務所では人手不足・・・」というのは言い過ぎだと私は思いますが、自治体間格差が大きく、疲弊しているのではないかと思われるところがあるのは否定しません。

ですが、担当者が経験不足だから相談者を怒らせてしまう、というのは、当てはまらない場合が多いのではないかと考えています。

福祉現場でも税(課税・徴収とも)でもそうですが、行政職員がいくらていねいに、寄り添った説明を行ったとしても、理解しない(理解できない、とは限らない)相談者は存在します。
自分が望む回答、説明でないと、ていねいで合理的な説明でも理解しようとしない、といった方がよいかもしれません。
(なお、制度自体があまり合理的ではない場合もありますが、それは自治体職員が悪いのではなく、私たち有権者が選んだ議員たちが制定した法律に基づいたものなので、その合理的ではない部分も含めてていねいに説明する以上のことを自治体職員に期待するのは無理です。住民の声を県や国に伝えてくれ、というぐらいが限界でしょう。)

この「食品販売員の男(44)」という人物がどうだったか、応対した女性職員(26)の説明がどうだったか、については、このニュース記事だけでは正確なところはわかりません。
ただ、この手の対行政暴力の事件があったとき、「行政の対応に問題があった可能性」というのを強調して書き込む「オーサー」というのはどうなのでしょうか?

この「オーサー」氏は、上にリンクを貼った「役所に行くのに刃物は不要」の事件について、

 

********************

松戸市で男性が「10万くれ。今すぐ金をもらえないならここで死ぬ」 行政は生活困窮者を犯罪に追い込むな
https://news.yahoo.co.jp/byline/fujitatakanori/20200514-00178396/

窓口に困窮を訴えて支給してほしいというのならば、よほどの事情があるということだ。
なぜ丁寧に事情を聴き、柔軟にその場で支給することができないのか。
10万円を給付することは決まっているのだから「順番に対応しているので今すぐには渡せない」という突き放した対応をするべきではない。
これを契機に各役所では窓口に来た人を犯罪に追い込むことがない対応を早急に検討してほしい。

********************

 

と主張しています。
生活保護は受けている。今すぐお金がもらえないならここで死んでやる」というこの容疑者の発言は全くわけがわからないのですが、
「よほどの事情があれば犯罪を起こしても行政の方に責任がある」ととられかねない表現は、この手の問題のオーサーとしてふさわしくないと私は考えます。


蛇足その1。
今の制度や、新型コロナウイルス感染症対策に問題がない、などとは私は思っていません。
ただ、その問題が、自治体の対応レベルで解決できるものではない、ということは明らかです。
まして、「職員が経験不足で対応に問題があったから重傷を負わされた」ととられかねないような表現には強く反対します。


蛇足その2
官公庁の窓口(特に福祉事務所)に来られる方々の絶対多数は、このような犯罪に無関係な方々だろうと思います。
ただ、万一の事態が起きないようにするため、誤解が生じないようにするためも含めて、職員が複数で対応する場合があることを、理解してください。