報告書本文4

(4)認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる

 前述のとおり、わが国の高齢者は元気であり、たとえば60代ぐらいは昔のイメージの高齢者とは違う存在になりつつあるといえる。実際に、定年延長の影響もあり、多くの高齢者がいまだ現役で働き、社会の中で活躍し続けている。
 しかしながら、長寿化と認知症の人の増加を踏まえると、今後は認知症の人はもはや決して例外的存在ではなく、認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうると認識すべきであるといえる。現状では、認知・判断能力が低下し、本人による意思能力が不十分となった場合、また、そのように判断された場合には日常生活を送るにあたって様々な制約を受けることになる。これを出来る限り回避するための事前の備えや適切な対応の重要性が増していくものと考えられる。

3.考えられる対応

 今まで述べた現状及び基本的視点と考え方をよく認識しつつ、個々人や金融サービス提供者はどういった対応が考えられるか。また、各主体による対応に加え、その対応を有効なものにしていくための環境整備も必要になると考えられる。

(1)個々人にとっての資産の形成・管理での心構え

 長寿化が進む中、資産形成・管理において、資産寿命を延ばす観点から、広く国民が知っておくことが望ましい事項があると考えられる。詳しくは付属文書1で述べることとするが、人生のステージに応じて整理すると以下のような点が考えられる。
○ 現役期
 長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期であり、例えば、以下のような対応が有効と考えられる。
 ・「人生100年時代」においてこれまでよりも長く生きる人が多いことを前提に、老後の生活も満足できるものとなるよう、早い時期からの資産形成の有効性を認識する。
 ・生活資金やいざというときに備えた資金については元本の保証されている預貯金等により確保しつつ、将来に向けて少額からでも長期・積立・分散投資による資産形成を行う。
 ・自らにふさわしいライフプラン・マネープランを検討する(必要に応じ、信頼できるアドバイザー等を見つけて相談する)。
 ・金融サービス提供者が顧客側の利益を重視しているかという観点から、長期的に取引できる提供者を選ぶ。
○ リタイヤ期前後
 リタイヤ期以降の人生も長期化していることに対応し、金融資産の目減りの抑制や計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期である。人によって、退職金などの多額のお金が入ったり、働き方に変化が生じることが想定されるため、これらを受けた対応が必要と考えられる。
 ・退職金がある場合、早期の情報収集と使途の検討及び退職金を踏まえたライフプラン・マネープランを再検討する。
 ・必要に応じ、収支の改善策を実行する。
 ・長い人生を見据えた、中長期的な資産運用の継続(長期・積立・分散投資等)とその後の計画的な取崩しを実行する。
○ 高齢期
 資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期であり、心身の衰えに関わらず金融サービスを引き続き享受するために、事前の準備や対応が必要と考えられる。
 ・心身の衰えを見据えてマネープランを見直す(医療費、老人ホーム入居費等)。
 ・認知・判断能力の低下や喪失に備え、取引関係の簡素化など心身の衰えに応じた対応をしやすくする。また、<金融面の本人意思を明確にしておき、自ら行動できなくなったとしても、他者のサポートにより、これまでと同様の金融サービスを利用しやすくしておく。>

(2)金融サービスのあり方

 (1)で述べた個々人のニーズに対して、顧客の資産寿命を伸ばしていく上で、金融サービス提供者がどのように顧客をサポートできるか、考えられる対応を整理する。詳しくは付属文書2で述べる。
 まず前提として重要になってくることは以下の二つである。
○ 顧客本位の業務運営の徹底
 ・顧客の状況からみて、過度にリスクの高い商品の販売を行わない等、顧客にとってふさわしいサービスを提供すること
 ・手数料の明確化
 ・リスクやリターン等を顧客が自ら判断できるようにするための分かりやすい情報提供等
○ サービスに見合う適切な対価の説明と請求(サービスの持続可能性や顧客の利用しやすさにも配慮)

 その上で、顧客の「長寿化」「自助の充実」「多様化」「認知・判断能力の低下・喪失への備え」に対して、考えられる対応としては以下が考えられる。
 ・「自助」充実のニーズ増に応じ、資産形成・管理やコンサルティング機能の強化
 ・多様な顧客ニーズに応じ、商品・サービスの多様化や「見える化」の推進
 ・<認知・判断能力が低下・喪失した者に対する資産の運用・保全向けの商品・サービスの充実>

 顧客の年代別に整理すると、以下の通り。
○ 現役期の顧客への対応
 現役期の顧客は他の年代に比べ、ネットの金融資産は多くなく、金銭的にも時間的にも生活に余裕は少ない。しかしながら老後の資金も含め、資産形成ニーズを潜在的保有している。これらの特徴を踏まえた商品やサービスの提供が必要であると考えられる。
 ・可能な限り、金融以外の資産・負債も含む家計のポートフォリオ全体を俯瞰し、個々の状況に即したマネープランの提案など総合的なコンサルティングサービスの提供。
 ・資産形成のニーズに対して、短期的な取引関係に終わらせず、長期・積立・分散投資等を提案。
 ・顧客との信頼関係の構築により、退職後も含めた長期的な取引関係へと結実。

○ リタイヤ期前後の顧客への対応
 リタイヤ期前後の顧客は、働き方を変える、退職金を得るなどにより、残りの人生の過ごし方とあわせて、顧客自らの収支を見直す時期と言える。顧客の多様性に応じた対応が特に求められる。
 ・就労延長や支出抑制策を含めた、特定の金融サービスに留まらないライフプラン・マネープランの提供
 ・就労延長・資産取崩し・リスク許容変化・長生きリスクに応じた多様な商品サービスの充実
 ・顧客の利益に沿ったワンストップ化サービスの提供
 ・他社の類似商品との比較のしやすさに配慮した商品の説明や内容の開示

○ 高齢期の顧客への対応
 高齢期の顧客は心身の衰えに応じ、介護等ニーズが増大し、マネープランを改めて見直すとともに、認知能力の低下・喪失に備えて、金融面でも準備を行う時期である。心身が衰えた後でも、金融サービスを受けられるサポートを提供することが重要と考えられる。
 ・業界の垣根を越え、非金融サービスとも連携した総合的なサービスの提供
 ・<認知能力が衰えた後でも、出来る限りそれ以前と同様に金融サービスを享受できる環境作りの推進>

(つづく)