一問一答 消費者契約法改正11

昨年の8月5日以降、放置していましたが、この記事の続きです。



<「民法の規定による」の削除>
問21 消費者契約法第8条第1項第3号及び第4号において、「民法の規定による」という文言を削除する必要性はどのようなものです
か。

(答)
1.消費者契約法第8条第1項第3号及び第4号は、事業者の不法行為による損害賠償責任を免除する条項について規律しているところ、事業者が不法行為責任を負う場面の一つとしては、法人の代表者が不法行為をした場合が想定されます。

2.そして、代表者の行為についての法人の不法行為責任に関しては、消費者契約法の立案当時は、民法第44条第1項等において規定されていたものの、その後、民法が改正され、同条が削除されたため、他の法律において同条に相当する規定が設けられるなどしています(例:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第78条)。

3.このような経緯等を踏まえると、規律の対象を必ずしも民法の規定による不法行為責任に限定すべきではないことから、「民法の規定による」という文言を削除することが必要であると考えられます。


<消費者の解除権を放棄させる条項の無効>
問22 事業者の債務不履行瑕疵担保責任に基づく消費者の解除権を放棄させる条項を無効とする必要性はどのようなものですか。

(答)
1.改正前の消費者契約法では、消費者契約の条項が無効になるかどうかは、第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項)及び第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等)に該当するものを除き、第10条によって判断されていました。

2.しかし、消費者契約法第10条の要件は抽象的であり、どのような条項が無効となるかが必ずしも明らかではないため、契約当事者の予測可能性を高める等の観点から、不当性が高い条項を無効とすることを明示的に定める必要があります。

3.事業者が債務を履行しない場合や、事業者の給付に瑕疵(注1)があり、契約の目的を達することができない場合でも、消費者に解除を認めず、消費者を契約に拘束し続ける条項(注2)は、不当性が高い条項であることから、これを無効とする規定を設ける必要があると考えられます。
(注1)瑕疵(かし)とは、当該契約において予定された品質・性能を欠いていることを指すものです。
(注2)このような条項があった場合、消費者は、事業者から契約で定められたとおりの給付を受けることができず、契約を締結した目的を達成することができないにもかかわらず、代金を支払わなければならなかったり、支払い済みの代金の返還を受けられなかったりすることになるため、このような条項は不当性が高いと考えられます。
(参考)消費者の解除権を放棄させる条項を無効とする規定を設ける趣旨

問23 [1]携帯電話端末の売買契約における「契約後のキャンセル・返品、返金、交換は、一切できません。」という条項、[2]進学塾の冬期講習受講契約における、代金払込後の解除を一切許さない旨の特約、あるいは、[3]貸衣装契約における「オーダーレンタルについては、契約後のキャンセルには応じられません。」という条項は、消費者契約法第8条の2に該当して無効になりますか。

(答)
1.これらの条項は、その文言上、事業者が債務を履行しない場合や、事業者の給付に瑕疵があり、契約の目的を達することができない場合を含めて、消費者に解除を認めず、消費者を契約に拘束し続ける条項であると考えられます。

2.したがって、これらの条項は、通常は、消費者契約法第8条の2に該当して無効になるものと考えられます(注)。ただし、これらの条項が無効となっても、消費者が「いかなる場合でもキャンセルをすることができる」ことになるわけではありません。
(注)このような条項であっても、当該契約において、事業者に債務不履行があったときは消費者が契約を解除することができる旨が別途明記されていた場合など、当該条項が債務不履行に基づく解除権を放棄させるものとは認められない場合には、消費者契約法第8条の2には該当しません。


消費者契約法第10条の第一要件に該当する条項の例示>
問24 消費者契約法第10条の第一要件に例示を追加する必要性はどのようなものですか。

(答)
1.消費者契約法第10条の第一要件とは、消費者契約の条項が、任意規定(注1)と比べて、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する場合を指すものです。
(注1)任意規定とは、法令中の規定で、当事者が、当該法令の内容と異なる意思表示をすればその規定を排除することができるもののことです。

2.ここでいう任意規定について、最高裁判所は、「明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれる」と判示しました(注2)。しかし、改正前の消費者契約法第10条の文言では、それが必ずしも明らかではありませんでした。そのため、一般的な法理等と比べて、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する条項を、消費者契約法第10条の第一要件に例示することにより、最高裁判所の判決の趣旨を明らかにすることとしました。
(注2)最判平成23年7月15日民集65 巻5号2269 頁。建物の賃貸借契約における更新料条項の有効性が争われた事例において、最高裁判所は上述の一般論を示した上で、更新料条項は消費者契約法第10条の第一要件に該当すると判示しました。賃貸借契約において、特約がなければ、賃借人は更新料を支払う義務を負わないという点については、明文の規定があるわけではなく、一般的な法理等に当たると考えられます。

3.具体的には、被害実態を踏まえ、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」(注3)を例示することとしたものです。
(注3)例えば、次のような事例が挙げられます。「通販で掃除機を購入したところ、商品の掃除機が届けられた際に健康食品が同封されていた。掃除機の売買契約には、健康食品が不要である旨の電話をしない限り、その健康食品を継続的に購入する契約となるという条項が含まれていた。」
 この場合の一般的な法理等は、契約が成立するためには、当事者双方の意思表示がなければならない、というものです。
(参考)法第10条第一要件に該当する具体的な条項を例示する趣旨




(つづく)