一問一答 消費者契約法改正9

問17 山林の所有者が測量会社から当該山林には売却可能性があるという説明を受けて当該山林の測量契約を締結したが、当該山林は実際には市場流通性の認められないものであったという事例では、不実告知による取消しが認められるのですか。

(答)
1.今回の改正によって追加される重要事項については、損害又は危険を回避するためであることが要件とされているところ、この損害には、利益を得られなかったという消極的な損害も含まれます。
2.このような事例においては、山林の売却による利益を得られないことが財産についての損害又は危険に該当します。そして、山林を売却するためには測量が必要であることから、損害又は危険を回避するために、測量(当該消費者契約の目的となるもの)は通常必要であると判断されます。
3.したがって、このような事例においても、不実告知による取消しが認められることとなります。


<取消権を行使した消費者の返還義務>
問18 取消権を行使した消費者の返還義務の範囲を現存利益に限定する必要性はどのようなものですか。

(答)
1.改正前の消費者契約法では、一般に、消費者契約法の規定による取消権を行使した消費者の返還義務の範囲について、給付の時に取消原因があることを消費者が知らなかった場合は、現存利益に限定されると解されており(注1)、原則として、消費者は手元にある原物を返還すればよい(注2)と考えられます。

(注1)民法第703条の規定が適用されると考えられます。
(注2)原物が手元にない場合には返還は不要となります。ただし、転売をしたことや他の出費を免れたことなどによって、消費者に利得が残っている場合は、その利得(転売価格相当額や免れた出費の額等)を返還することとなると解されています。また、原物を使用したことによって利益を得ている場合は、その使用利益相当分の金額も返還することとなると解されています。

2.例えば、1箱1万円のサプリメントを5箱購入し、2箱分を費消したところで事業者の不実告知に気付き、それを理由に取消権を行使した場合には、原則として手元にある3箱を返還すればよいこととなります(注3)。
(注3)例えば、「やまいも」にアレルギーのある消費者が、事業者から「やまいも」が含まれていない旨の説明を受けてサプリメントを購入したところ、当該サプリメントには原材料として「やまいも」が含まれていた事例のように、当該サプリメントが、客観的には代金相当額の価値があるものの、当該消費者にとっては、アレルギーの影響などによって、その摂取によって利益を得たと評価することができないものであり、また、当該サプリメントを摂取したことにより、当該消費者が食費等その他の支出を免れていないことを前提としています。

3.これに対し、民法の一部を改正する法律案の関係規定をそのまま適用すると、消費者契約法の規定による取消権を行使した消費者の返還義務の範囲は、原則として原状回復となるものと解されます(注4)。したがって、上述の2の事例では、手元にある3箱に加え、費消した2箱分の客観的価値(2万円)を返還しなければならないことになります。
(注4)現在継続審議となっている民法の一部を改正する法律案(第189回国会閣法第63号)が成立し、施行された場合には、同法案による改正後の民法第121条の2第1項が適用されることとなると考えられます。

4.この場合、消費者は、結果的に3箱分(3万円)の返金しか受けられず、2箱分の代金(2万円)を支払ったのと変わらないことになり(注5)、消費者契約法が取消権を認めた趣旨が損なわれてしまうため、従前の規律を維持する規定を設けることが必要であると考えられます。
(注5)返還義務の範囲は以下のとおりと考えられます。
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(つづく)