一問一答 消費者契約法改正8

の続きです。


<重要事項の範囲>
問14 重要事項の範囲を拡大する必要性はどのようなものですか。

(答)
1.改正前の消費者契約法は、不実告知による取消しの対象となる重要事項を、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容、及び対価その他の取引条件としていました。
2.しかしながら、例えば、真実に反して「溝が大きくすり減っていてこのまま走ると危ない、タイヤ交換が必要である。」と告げて新しいタイヤを購入させる事例のように、消費者契約の目的となるものに関しない事項について不実告知をしたことによる消費者被害が生じていましたが、改正前の消費者契約法では取り消すことができませんでした。
 このような消費者被害は、消費者が本来不要である契約を締結してしまったものであり、改正前の消費者契約法における重要事項について不実告知があった場合と同様に消費者の誤認が重大であり、取消しが認められるべきであると考えられます。
3.そこで、このような事例においても不実告知による取消しができるようにする観点から、重要事項の範囲を拡大することとしたものです。


問15 真実に反して「溝が大きくすり減っていてこのまま走ると危ない、タイヤ交換が必要である。」と告げて新しいタイヤを購入させる事例では、重要事項の範囲を拡大することによって取消しが認められますか。また、その他には、どのような事例で取消しが認められるようになりますか。

(答)
1.このような事例においては、溝が大きくすり減っているタイヤで走行をした場合に生じる危険は生命、身体、財産についての損害又は危険であり、これを回避するために新しいタイヤ(当該消費者契約の目的となるもの)が通常必要であると判断されるので、取消しが認められることとなります。
2.その他の事例でも、例えば、真実に反して「パソコンがウイルスに感染しており、情報がインターネット上に流出するおそれがある。」と言われ、ウイルスを駆除するソフトを購入した事例では、プライバシーの利益が重要な利益に該当するものであり、プライバシーに関する情報が流出するという重要な利益についての損害又は危険を回避するために、当該ソフト(当該消費者契約の目的となるもの)が通常必要であると判断されるので、取消しが認められます。
3.真実に反して「このままだと2、3年後には必ず肌がボロボロになる。」と言われ、化粧品を購入した事例では、肌がボロボロになることは身体についての損害又は危険であり、これを回避するために、化粧品(当該消費者契約の目的となるもの)が通常必要であると判断されるので、取消しが認められます。
4.真実に反して「毛根の組織が死んでいるので自分の毛が生えることは望めない。」と言われ、かつらを購入した事例では、容貌を維持して生活する利益は重要な利益に該当するところ、毛根の組織が死んでおり髪の毛が生えない結果、容貌が悪化したままで改善しないという重要な利益についての損害又は危険を回避するために、かつら(当該消費者契約の目的となるもの)が通常必要であると判断されるので、取消しが認められます。
5.真実に反して「この資格はまもなく国家資格になる。そうなれば難易度が上がり、資格の取得が困難になる。」と告げられ、その資格を保有していると希望する職業への就職に当たって有利に扱われるため、資格を取得することができる講座の受講を申し込んだ事例では、希望する職業への就職は重要な利益に該当し、希望する職業への就職に当たって有利に扱われなくなるという重要な利益についての損害又は危険を回避するために、講座の受講(当該消費者契約の目的となるもの)が通常必要であると判断されるので、取消しが認められます。


問16 重要な利益という文言は何を指すのですか。

(答)
1.法的に保護すべき利益として、例示として挙げられている生命、身体、財産と同程度に重要性や価値が認められるものです(注1)。重要性が必ずしも高くないものについては、それについての損害又は危険を回避するために消費者契約の目的となるものが必要であったとしても重要事項には該当しないことを明確にすることで、取消しが可能となる範囲の適正化を図ったものです。
(注1)重要な利益に当たるかどうかは、一般的・平均的な消費者を基準として判断されます。
2.重要な利益の例としては、名誉・プライバシーの利益や電話を使用して通話するという生活上の利益(注2)が挙げられます。

(注2)真実に反して「今使っている電話機が使えなくなる。」と言われ、新しい電話機を購入した事例が想定されます。

(つづく)