介護と経済効果

道路などの(従来型の)公共工事に投資するのと、介護サービスに投資するのと、経済効果が高いのはどちらでしょうか?

これには、いろいろな切り口があると思います。


たとえば、たぬさんのこちらの記事では、前者が高い(けれども、以前と比べてその差は縮小している)ということが書かれています。
http://blogs.yahoo.co.jp/tanu_wb/65282482.html


一方、「介護サービスは建設業より経済効果も大きい」という山井和則氏の(たぶん古い)ウェブサイト。
http://www.wao.or.jp/yamanoi/hoken/point/point12.html

 介護サービスを充実させることは、国民に安心感を与え、未来に向けた消費に結びつきます。だから、介護保険は根本的な景気対策であるとも言えます。

 まず第一に、景気回復のためには、内需を拡大することが必要ですが、従来型の大きな建物を建てる公共事業よりも、介護サービスを増やす公共事業の方が、経済波及効果や雇用効果が大きいという研究結果が出ています。

 この点については、岡本祐三先生(神戸看護大学教授)が、著書「福祉は投資である」(日本評論社)で、かねてから主張されています。
 池田省三先生(龍谷大学助教授)も指摘されていることです。

 福祉と言えば、経済の足を引っ張ると思われがちでした。
 しかし、介護サービスの充実が地域経済を活性化させる効果は、従来型の公共事業よりも高いのです。

ちょっと懐かしいようなお名前も出ていますね。


あるいは、これも古いですが、富山県政策情報誌「でるくい」9号 1999/7
http://www.pref.toyama.jp/branches/1133/derukui/199907/08.htm

 富山県における福祉サービスの経済的波及効果について、産業連関分析を行ったところ、第1表のとおり、建設投資と同様の経済的な波及効果があることがわかりました。
(この経済的波及効果の試算は、北陸経済研究所によるもの)

 この表からもわかるように、生産誘発額の倍率は、3業種の中では社会保障(福祉)が1.81倍で最も高くなっており、また、雇用者誘発数についても、社会保障が最も高く、建設の約2倍の効果があるという結果になっています。

 この産業連関による波及効果の分析結果から、社会保障(福祉)分野の経済的波及効果は、かなり高いということが窺えるわけですが、建設部門などの他の部門と比較する場合には、次のような点について留意する必要があると考えられます。

ア 例えば、建設投資の波及効果は、工事の実施に伴って発生する資材、建設機械の需要 や雇用の増大などの副次的な経済効果をみるものである。一方、建設投資の結果として道路などの社会資本が残るのであり、それによる運輸・交通や地域経済などの効率化、活性化などの大きな効果がある。このように事業本来の目的自体に経済的効果を含んでいるが、その部分は産業連関表による分析では表面には出てこない。

イ 社会保障(福祉)部門は、建設など他の部門と比較すると県内生産額に占めるウエイトが小さく、現状としては、経済的な受け皿として限界がある。
〔○社会保障部門:404億円、○建設部門:9,618億円……平成2年産業連関表における県内生産額の規模〕
 このようなことから、福祉部門と建設など他部門の経済的効果を単純に比較することは難しいといえるでしょう。

 ところで、近年、福祉の経済効果が注目されていることもあり、複数の県で本県と同様の経済的波及効果の試算が行われています(第2表参照)。

 この結果をみると、各県の経済構造などの違いによって、多少の差はありますが、各県とも共通して、生産誘発効果については建設と概ね同じレベルで、雇用誘発効果については建設をかなり上回るという傾向となっています。

ア・イの、特に太字の箇所に留意して読むと、けっこう公平な見方かな、と思います。
もちろん、「雇用誘発効果については建設をかなり上回るという傾向」というのも、地方自治体にとってはかなり重要です。


ちなみに、こういうページもあります。

恣意的な面があることに注意が必要
(nikkei4946.com <「経済効果○兆円」ってどうやって計算するの?>の6ページ目)
https://www.nikkei4946.com/zenzukai/detail.aspx?zenzukai=89

 極端な場合、同じことについての経済効果を試算しても、正反対の結果が出ることもあります。現在、国内ではTPP(環太平洋経済連携協定)と呼ばれる貿易自由化交渉を進めるかどうかが議論されていますが、参加に慎重姿勢を示している農林水産省はTPPによる貿易自由化で実質国内総生産が7.9兆円に減ると試算。一方、TPPに積極的な経済産業省はTPPに参加せず自由化しないと10.5兆円減るとしています。これは、農水省は農業と関連産業、経産省は自動車と機械など主力産業への影響だけを計算しているためです。このように計算する人の思惑が如実に出ることがある点には注意が必要でしょう。

太字にしたのは引用者の恣意です(笑)


ところで、私は最近、こんなことを書きました。
補助金交付金、介護給付費、その他の社会保障費、なんでもいいですが、公的費用を投入した場合、経済にとって効果が高いのは何でしょうか?

老齢年金、特に経済的に余裕のある高齢者への年金給付は、使われずに経済循環には無関係となる可能性があります。
(低額の年金でぎりぎりの生活をしている人の場合には、ほぼ全額が生活費として使われるので「死蔵」にはなりません。)

医療費や介護費は、その業界で働いているスタッフに回る部分が必ずあります。
特に介護業界は比較的低収入のスタッフが多いとすれば、かれらの給料は生活費として支出される割合が高く、国内の経済循環に回る可能性が非常に高くなると考えられます。
(医療業界は、介護業界に比べれば高収入・・・という話はともかく、医薬品等で国外に流失する部分があるので、介護業界に比べれば効率性は落ちるかもしれません。ただし、就労者の健康を維持するという効果も考えれば、経済にはプラス、という見方もできます。)

特養など施設整備費用は?
建設業界などに支出されるので、経済循環には効果があります。
ただし、建設資材は国外からの調達もあるので、介護スタッフへの給料支払いよりは効率が落ちるとも考えられます。
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/34245746.html

建設事業などとの比較でなく、年金、医療、介護についての比較です。

ひょっとしたら、伝統的な経済の考え方からは、はみ出しているかもしれませんが、
(それほど高収入とはいえない)雇用者への人件費支出は、「死蔵」されずに他の支出に回る割合が高いこともあり、経済効果が高い
という論点で書いています。

これにも恣意的な面があるといわれれば仕方ないところですが(笑)