認知症の家族を監督する義務はあるか

以前に書いた「事故死の認知症男性の遺族に賠償命令」の記事について
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/32346745.html

その記事で、関連ありそうな民法の条文を貼りました。



第712条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

第713条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。


第714条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、<その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者>は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。



一番引っかかるのは、<その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者>というところなんですね。

認知症高齢者の家族は、「監督する法定の義務を負う者」か?

日本国憲法第31条の
「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」
という理念からすれば、監督とか監護についても慎重に判断されなければならないと思います。

民法でも、親権者が子に対する権利義務は、比較的明確に規定されています。



第820条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

第821条 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。


第822条 親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。



ですが、成人に対しては、そうではありません。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
第20条 精神障害者については、その後見人又は保佐人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者が保護者となる。ただし、次の各号のいずれかに該当する者は保護者とならない。
  一~六 略
2 保護者が数人ある場合において、その義務を行うべき順位は、次のとおりとする。ただし、本人の保護のため特に必要があると認める場合には、後見人又は保佐人以外の者について家庭裁判所は利害関係人の申立てによりその順位を変更することができる。
  一 後見人又は保佐人
  二 配偶者
  三 親権を行う者
  四 前二号の者以外の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者


第21条 前条第二項各号の保護者がないとき又はこれらの保護者がその義務を行うことができないときはその精神障害者の居住地を管轄する市町村長(特別区の長を含む。以下同じ。)、居住地がないか又は明らかでないときはその精神障害者の現在地を管轄する市町村長が保護者となる。



で、以下、保護者の義務が列挙されていますが、この第20条以下の条文は改正(削除)されることが決まっています。(平成26年4月1日施行)

認知症高齢者は精神障害者に含まれる」という考え方に立つとしても、
この法律の規定を理由として家族等を「監督する法定の義務を負う者」とみなすのは、時代にそぐわないということになります。
まあ、第21条をもって市町村長に民法第714条の義務を押しつけるのも無理があるでしょうが。

認知症の方に限らず、家族がどこまで権利・義務を有するのか、というのは、あまり整備されていないのではないでしょうか。
私は、緊急避難など特別な状況を除き、行政等が法律の規定により行う場合以外は、
「その生命若しくは自由を奪はれ」る事態は想定されていないのではないかと考えています。
(ただし、民法第713条については、改正または運用についての議論の余地ありとも思います。)

なお、本人や家族の同意と行政の措置の関係については、こちらの記事などで触れています。
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/32002225.html