「選抜制」再論

本記事は、久しぶりに「敬称略」で進めます。


まず、北京五輪の英国チームが「選抜制」といわれる件について。

 

北京五輪の英国女子チームは、次のとおりです。
(スキップ、サード、セカンド、リード、フィフス(リザーブ)の順。年齢は北京五輪時点)

 

イブ・ミュアヘッド(31)、ヴィクトリア・ライト(28)、ジェニファー・ドッズ(30)、ヘイリー・ダフ(25)、ミリー・スミス(24)

このうち、ヴィクトリア・ライト(ヴィッキー・ライトともいう)とジェニファー・ドッズは、2018-19シーズンからのミュアヘッドのチームメイト。
リードのヘイリー・ダフは、長年ミュアヘッドの同僚であったローレン・グレイが引退したための補充と思われます。
なお、ミリー・スミスは、北京五輪では出場はなく、オリンピックまで期間限定のメンバーの可能性がありますが、詳しいことはわかりません。

総合的に見て、世間(マスメディアとかビジネス界など)でいわれるような、カーリング協会が一からメンバーを集めるような選抜制ではない、と考えられます。

 


次に、「少なくとも女子代表チームについては選抜制は無用ということは、今季の五輪や日本選手権で、より明らかになった」と前記事で書いたことについて。

平昌・北京と「五輪で2大会連続メダル」は、女子カーリング界でもスウェーデンと日本だけ、というのは過去にも書きました。
その五輪代表のロコ・ソラーレは、日本選手権では抜群の安定感で、勝敗差、得点差以上の強さを見せました。
北京五輪でいえば、予選リーグのスイスかスウェーデンかというイメージでした。
唯一、黒星をつけたフォルティウスと比べても、現時点での総合的な力量差は明らかでしょう。

 

仮に選抜制を検討するとして、スキップ(フォース)がロコ・ソラーレ藤澤五月となるのは、衆目の一致するところ。
リードも、北京五輪の予選リーグで世界トップのショット成功率をたたき出した吉田夕梨花は外せないでしょう。
セカンドの鈴木夕湖については、ショット成功率はともかく、抜群のスイープ力と、アイスやウェイトを読む能力を合わせれば、やはり「選抜」に値すると考えられます。

 

さて、サードについて。
吉田知那美は、「アンチ・ロコ」論者が、しばしば標的にするようです。
(他のメンバーが標的になりにくいから、という要素はあるかもしれません。)
北京五輪の予選リーグでの彼女のショット成功率は、78.7%で、サードとしては6位です。1位はマクマナス(スウェーデン)の84%、最下位はワシリエワ(OAR)の70%ということで、少なくとも特別に悪いわけではありません。

まあ、「やらかす」ことはありますが。

 

ですが、彼女にはもうひとつ、大事な役割があります。
バイススキップとして、フォースとしての藤澤五月が投げるときの指示役です。

下の画像2枚は、日本選手権の予選リーグ、ロコ・ソラーレ北海道銀行戦の第7エンドから。
先日、「スーパーショットの応酬」という記事を書きましたが、
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2022/05/26/223702

北海道銀行のスキップ・田畑百葉の最終投がハウスの中央に決まり、No.1ストーンとなったところです。
残るはロコ・ソラーレの藤澤の最終投のみ。

 

ここで、吉田知那美は、ブラシで8時方向の赤を指し、すぐに中央の赤も指しました。
この後、別の石も軽く指しましたが、藤澤は特に異議を示した様子はなく、反対方向に回って確認すると、そのまま最終投のデリバリーの位置に向かいました。

 

このゲームは固定カメラによる動画配信で、会場の音声も解説もないので、二人が何を話していたのか正確なところはわかりません。
(画像に黄色で書き込んでいるのは、私の想像です。)
しかしながら、吉田知那美が示した作戦を、藤澤がほぼ即座に了解したのは間違いないと思います。

 

そして、中央の赤のみを弾き出す藤澤のショットにより、5点がロコ・ソラーレに入り、北海道銀行はロコの勝利を認めました。

 

藤澤のショットはすごい。それは見た人全てがわかる。
それをスイープした吉田夕梨花鈴木夕湖も、作戦を正確に理解して助けた。それも、二人を知る人にはわかりやすい。
でも、吉田知那美が局面を見て即座に作戦を示し、藤澤がすぐにOKした(そしてスイーパー陣も理解を共有した)、ということは、気がつきにくい、評価されにくい。

 

藤澤の最終投自体は、オリンピック級のチームであれば、候補のひとつとして思いつくものかもしれません。
ですが、あの場面で、すぐに吉田知那美と同じことができ、かつスキップがすぐに受け入れるようなバイススキップが、彼女以外に何人いるでしょうか?

彼女は、(サードとしては意見があるにしても)バイススキップとしては、銀メダルチームにふさわしい、と私は思います。

 

で、今でも「選抜制」を主張する方々、こういうバイススキップとしての資質、能力をどうやって評価するか、手段をお持ちですか?
また、正確に評価する自信がありますか?