ショット成功率・再考

カーリングについて、「過去の五輪ショット成功率」という記事を6月に書きました。
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2022/06/15/221704

そこでも、ショット成功率だけで評価するのは課題がある、ということを、チラッと書いたのですが、参考になりそうな記事を見つけたので、ちょっと引用。

 


なぜカーリングの「アイス」は難しくなっているのか。サード吉田知那美が分かりやすく解説してくれた【北京五輪
THE DIGEST編集部 2022.02.14
https://thedigestweb.com/topics_detail13/id=52570

ROC戦の試合後にリードの吉田夕梨花が「試合に勝ったというよりは、アイスに勝ったというか、いままでで一番難しかった」と振り返れば、姉でサードの吉田知那美は「掴みどころのないアイスでしたね。気合で押し切りました」と話し、ホッとした表情を浮かべた。

 セカンドの鈴木夕湖はショットが思うように決まらず、勝利が決まった直後には感極まって大粒の涙を流した。「とりあえずショットが決まらなくて……。本当に辛かったんですけど、みんなが助けてくれて、本当にみんなに感謝したいです」と声を振り絞る盟友に対して、スキップの藤澤五月は「ゆうみ(鈴木)のショット率がそんなに良くなかった。でもそれがあったからこそ、ちな(吉田知)だったり私だったりのショットが繋がって決め切れた」とフォロー。あらためて厚い信頼関係と団結力を内外に示した。

 そんななか、休養日となった翌日に吉田知が公式インスタグラムを更新し、「ストーリー」上でより詳細な解説とROC戦評をファンに伝えた。「不調だったのは夕湖じゃなくてアイスコンディションとストーン状況だった昨晩」と書き出して、次のように続けた。

「過去のオリンピックではあり得ないほどの天井の高さ、室温の高さ、そして極度の乾燥による湿度の低さ。世界最高峰のアイスメーカーさんたちも力を合わせて必死に良いコンディションを保つよう尽力してくれています」

 さらに、鈴木のパフォーマンスについても独自の見解を示した。「ゆうみのポジションはゲームを作る、“セットアップ”と呼ばれる戦略の要をつくる役割で、アイスが不安定な状況の時に投げなければいけないポジション」とその難しさを明かし、「いつもなら完璧に近い予測をコミュニケーションで打ち出して投げれたのですが、昨日のアイスは、わたしたちがどんなに歩み寄ろうとしても、みんなの記憶のデータを集結させ、最も可能性の高いデータを使って投げても、刻一刻とアイスが変化していき、結果、ゆうみの投げなければいけないショットがギャンブルのようになってしまいました」と、絶妙な言い回しで説明した。

 ROC戦で結果的に勝利を掴めたのは、藤澤もコメントした通り、鈴木の奮闘があったからこそだと断言する。

「夕湖が最後まで自分の滑りを信じていつも通り綺麗に、美しく投げ続けてくれたので、その結果を踏まえてわたしとさっちゃん(藤澤)がアイスコンディションの予測データを後半7エンド以降にようやく修正することができました」

 最後にあらためて、「アイスは生きもののように変化し続けています」と表現し、「昨日は、辛い役目を夕湖が引き受けてくれました。その役目がゆりか(吉田夕)の日もあれば、わたしにまわってくる日もさっちゃんの日もある。どんな性格のアイスでも嫌いにならず、これからも心を開いて受け止め続けたいと思います」とポジティブに締めくくった。
<引用ここまで>

 

藤澤選手については
「私以外の3人がたくさんスイープしてくれて、ショットを決めてくれた。チーム全員で勝ち取った勝利だなと思います」
とも話していたという記事もあります。
東洋経済オンライン・木村隆志 2022/02/18 14:55)
https://toyokeizai.net/articles/-/512844?page=3

 


その対ROC戦ですが、たしかに日本は苦しい戦いで、第6エンドを終了した時点で2-5とリードされていました。

知那美選手の解説のとおり、「アイスがわかってきた」第7エンドで一挙3点を取って同点。その次のエンドからは、不利な先攻で3連続スチールして、終わってみれば5点差勝ちとなりました。

日本は予選リーグ(ラウンドロビン)で5勝4敗でしたが、藤澤選手がショット成功率80%に達すれば勝ち、70%台以下なら負け、という結果になっています。
相手チームの出来も関係ありますが、最後に投げるフォースの重要性がわかります。

 

リードのスーパー職人・夕梨花選手の「高値安定」ぶりが目立ち、鈴木選手や知那美選手がワリを食うことがままあるとは思いますが、彼女たちの「うまくいかない」ショットが、それより後に投げる選手のショットに貢献しているということですね。

 

北京五輪の予選リーグの上位5チームのショット成功率を、ポジション順にグラフにしてみました。
スイス(緑)のように、一般的にはリードから後に行くにつれて低下する傾向があるのですが、チームによって多少なりとも違いはあります。
前述のとおり日本(赤)はリードが高いのですが、セカンドやサードも、他チームに比べてそれほど低いわけではありません。
傾向としてはスウェーデン(青)に似ていますが、違うのは、フォースが跳ね上がっているところ。

藤澤選手が凄い?

日本のフォースはたしかに「世界のフジサワ」ですが、他のフォースも「世界のハッセルボリ(スウェーデン:平昌金、北京銅)」「世界のミュアヘッド(英国:ソチ銅、北京金)」「レジェンドJJ(カナダ:ソチ五輪全勝で金、世界選手権も金2、グランドスラム優勝いっぱい)」です。
スイスはスキップがフォースではないので説明が面倒ですが、世界選手権3連覇中です。

このレベルのチームなら、当然のように前に投げた選手のショットからアイスの状態の変化を分析して、後のショットに生かしているのでしょう。


その中でも、日本のフォースのショット成功率が特に高い理由を推測するとすれば、アイスの状況についての情報の共有の早さ(スイーパーとスキップまたはバイススキップ)、スイーパーの能力(スイープ力に加えとっさの判断力)が入ってくるように思います。

ロコ・ソラーレは、氷上の4人に限っても、8個の目、4個の口がフル活用されているのでしょう。
マイクで拾われた音声が多少うるさくても(?)、仕方がないところだと思います。