一問一答 消費者契約法改正1

一問一答 消費者契約法の一部を改正する法律

<総論>
問1 今回の改正の経緯はどのようなものですか。

(答)
1.近年の高齢化の進展を始めとした社会経済情勢の変化等により、高齢者の消費者被害が増加しており、改正前の消費者契約法では十分に被害救済を図ることが難しい事案(注1)もあります。また、平成13年に消費者契約法が施行されてから、裁判例や消費生活相談事例が蓄積しており、その傾向等も踏まえ、適切な措置を講じる必要があります。
(注1)例えば、事業者が、一人暮らしの高齢者に対し、その生活の状況を知りながら、店舗で大量の着物を購入させるという事案が挙げられます。

2.こうした状況を踏まえ、平成26年8月5日に内閣総理大臣から内閣府消費者委員会(以下「消費者委員会」といいます。)に対し、消費者契約法の規律等の在り方についての諮問が行われました。その後、消費者委員会の消費者契約法専門調査会における審議(注2)を経て、平成28年1月7日に諮問に対する答申がなされました。
(注2)消費者委員会に設置された消費者契約法専門調査会において、平成26年11月から平成27年12月までの間に合計24回の審議が行われました。

3.消費者委員会の答申を踏まえ、消費者庁において所要の法制化作業を行い、平成28年3月4日に「消費者契約法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました。その後、国会における審議(注3)を経て、平成28年6月3日に公布されました(平成28年法律第61号)。
(注3)衆議院では平成28年5月10日に、参議院では平成28年5月25日に可決されました(共に全会一致)。


問2 今回の改正はどのような考え方に基づいて検討がなされたものですか。

(答)
1.今回の改正に当たっては、平成13年の消費者契約法施行後の社会経済情勢の変化、裁判例等の傾向、民法等との関係といった視点を踏まえ、検討がなされています。
2.具体的には、
・高齢化の更なる進展を始めとした社会経済情勢の変化に適切に対応すること
・裁判例及び消費生活相談事例の傾向も踏まえ、紛争解決の基準を明確化し、消費生活相談の現場で消費者契約法が十分に活用されるとともに、事業者の予測可能性を確保すること
民法及び個別の業法における民事ルールとの関係(注)を踏まえ、消費者契約法の規定を適切に位置付けること
が挙げられます。

(注)消費者契約法については、対等な当事者間における法律関係を念頭に置く民法との関係では特別法に当たりますが、個別の業法における民事ルールとの関係では消費者契約に関する一般法に当たります。


問3 今回の改正と民法(債権関係)の見直しに関連する論点としてはどのようなものがありますか。

(答)
1.今回の改正においては、現在国会に提出されている民法の一部を改正する法律案で取消しの効果は原状回復が原則とされていること(注1)を踏まえ、取消権を行使した消費者の返還義務に関する規定(注2)を設けています。

(注1)現在継続審議となっている民法の一部を改正する法律案(第189回国会閣法第63号)が成立し、施行された場合には、同法案による改正後の民法第121条の2第1項として規定されることになります。
(注2)消費者契約法の一部を改正する法律(平成28年法律第61号)による改正後の消費者契約法第6条の2の規定を指すものです。

2.また、過量な内容の消費者契約の取消しについては、民法(債権関係)の見直しに関する法制審議会の審議の内容(注3)も参照しつつ、立案を行ったものです。
(注3)いわゆる暴利行為に当たる法律行為は無効とする旨の規定を設けるかどうかについての審議の内容などが挙げられます。

3.このように、民法の一部を改正する法律案や法制審議会における議論の内容も踏まえた上で、今回の改正が行われています。
(参考1)現行法の規定
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(参考2)
民法の一部を改正する法律案(第189回国会閣法第63号)による改正後の民法(原状回復の義務)
第百二十一条の二 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

(つづく)