老人福祉施設や事業の経営主体

前記事の続きです。
地方自治体が小規模多機能型居宅介護などを経営することができる根拠を見ていきます。
 
まず、老人福祉法から。
施設の設置については、在宅サービス用のものも含めて、わりと明確に示されています。
 


第十五条 都道府県は、老人福祉施設を設置することができる。
2 国及び都道府県以外の者は、厚生労働省令の定めるところにより、あらかじめ、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出て、老人デイサービスセンター老人短期入所施設又は老人介護支援センターを設置することができる。
3 市町村及び地方独立行政法人(略)は、厚生労働省令の定めるところにより、あらかじめ、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出て、養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置することができる。
4 社会福祉法人は、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて、養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置することができる。
5 国及び都道府県以外の者は、社会福祉法の定めるところにより、軽費老人ホーム又は老人福祉センターを設置することができる。
(本条について、以下略)


 
一方、在宅サービスの「老人居宅生活支援事業」は、といえば、


第十四条 国及び都道府県以外の者は、厚生労働省令の定めるところにより、あらかじめ、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出て、老人居宅生活支援事業を行うことができる。


 
というのみで、「国及び都道府県」がどうか、ということについては示されていないように見えます。
では、国や都道府県は、老人居宅生活支援事業(小規模多機能型居宅介護を含みます)は行えないのでしょうか?
 
この第14条の後に、変更届についての条文がありますが、さらに第14条の3で、
 

国及び都道府県以外の者は、老人居宅生活支援事業を廃止し、又は休止しようとするときは、その廃止又は休止の日の一月前までに、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならない。

 
とされています。
「国及び都道府県以外の者」だけが老人居宅生活支援事業を行える、というのなら、こういう書き方ではなく、
「前々条(第十四条)の規定により届け出た者は」というような表現になるのが普通です。
(あるいは、「老人居宅生活支援事業を行う者は」というような表現。)
 
ということで、第14条は、「国及び都道府県以外の者は・・・届け出なければ・・・事業を行うことができない」
そして、「国及び都道府県は事業を行うに際し(老人福祉法上は)届け出の義務はない」と解すべきかと。
 
これら、老人福祉法の条文に、社会福祉法の考え方を加えて整理すると、こんな表ができます。
 

イメージ 1

 
社会福祉法における社会福祉事業の定義の中には、たとえば「老人デイサービスセンターの経営」と「老人デイサービス事業」とが別に記されていてわかりにくいのですが、そのまま並べています。
 
さて、社会福祉法第60条に、
社会福祉事業のうち、第一種社会福祉事業は、国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする。」
とあることから、該当部分に黄色を塗ってみました。

第一種社会福祉事業である老人福祉施設のうち、軽費老人ホーム都道府県知事の許可があれば社会福祉法人以外の民間法人でも設置できる可能性がありますが、特養などはそうではありません(灰色部分)。
 
一方、国や都道府県について、老人福祉法でも社会福祉法でも明示されていない事業(水色部分)はどうかといえば、(経営が難しいとされる)第一種社会福祉事業の担い手である国や都道府県が行えない、と考えるのは無理があるでしょう。
(実際、都道府県の特養等が併設で老人居宅生活支援事業を実施している例は普通にあります。)
 
もちろん、市町村や民間が行えるような事業を、あえて国や都道府県が行う意味があるかどうかは、また別の問題です。
市町村でさえ、社会福祉法人を含めた民間法人に、なるべくなら事業を任せていきたい、というのが、少なくない自治体のホンネでしょう。
 
でも、民間の参入が困難な地域では、小規模多機能型居宅介護を含めた在宅サービスを、地方自治体が取り組むことは、それほどあり得ない選択肢ではないと私は思います。