生活保護世帯の個人情報

またまた、ネット上某所の話題から。

ケアマネなど介護保険関係の訪問者が、生活保護世帯について疑義を抱いたとします。
生活保護担当ケースワーカーに報告するのは、個人情報保護の観点から問題でしょうか?

まず、根拠規定を確認。


個人情報の保護に関する法律第23条第1項
 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
 一 法令に基づく場合
 二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
 三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
 四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
(第2項以下略)



で、第一号の「法令に基づく場合」ですが、生活保護法から(第四号もからむかもしれませんが)。


第49条 厚生労働大臣は、国の開設した病院若しくは診療所又は薬局についてその主務大臣の同意を得て、都道府県知事は、その他の病院、診療所(これらに準ずるものとして政令で定めるものを含む。)若しくは薬局又は医師若しくは歯科医師について開設者又は本人の同意を得て、この法律による医療扶助のための医療を担当させる機関を指定する。

第50条 前条の規定により指定を受けた医療機関(以下「指定医療機関」という。)は、厚生労働大臣の定めるところにより、懇切丁寧に被保護者の医療を担当しなければならない。
2 指定医療機関は、被保護者の医療について、都道府県知事の行う指導に従わなければならない。

第54条 厚生労働大臣又は都道府県知事は、診療内容及び診療報酬請求の適否を調査するため必要があるときは、指定医療機関の管理者に対して、必要と認める事項の報告を命じ、又は当該職員に、当該医療機関について実地に、その設備若しくは診療録その他の帳簿書類を検査させることができる。
2 略

第54条の2 厚生労働大臣は、国の開設した地域密着型介護老人福祉施設介護老人福祉施設又は介護老人保健施設についてその主務大臣の同意を得て、都道府県知事は、その他の地域密着型介護老人福祉施設介護老人福祉施設若しくは介護老人保健施設、その事業として居宅介護を行う者若しくはその事業として居宅介護支援計画を作成する者、特定福祉用具販売事業者、その事業として介護予防を行う者若しくは地域包括支援センター又は特定介護予防福祉用具販売事業者について開設者、本人又は設置者の同意を得て、この法律による介護扶助のための居宅介護若しくは居宅介護支援計画の作成、福祉用具の給付、施設介護、介護予防若しくは介護予防支援計画の作成又は介護予防福祉用具の給付を担当させる機関を指定する。
2~3 略
4 第50条から前条までの規定は、第一項の規定により指定を受けた介護機関(略)について準用する。(略)

第86条 (略)第54条第一項(第54条の2第四項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)(略)の規定による報告を怠り、若しくは虚偽の報告をし(略)若しくは第54条第一項の規定による当該職員の調査若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、30万円以下の罰金に処する。
2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても前項の刑を科する。



指定医療機関医療担当規程(昭和25年厚生省告示第222号)


第1条 指定医療機関は、生活保護法に定めるところによるのほか、この規程の定めるところにより、医療を必要とする被保護者(以下「患者」という。)の医療を担当しなければならない。
(通知)
第10条 指定医療機関が、患者について左の各号の一に該当する事実のあることを知つた場合には、すみやかに、意見を附して医療券を発給した保護の実施機関に通知しなければならない。
 一 患者が正当な理由なくして、診療に関する指導に従わないとき。
 二 患者が詐偽その他不正な手段により診療を受け、又は受けようとしたとき。



指定介護機関介護担当規程(平成12年厚生省告示第191号)


第1条 指定介護機関は、生活保護法に定めるところによるほか、この規程の定めるところにより、介護を必要とする被保護者(以下「要介護者」という。)の介護を担当しなければならない。

第8条 指定介護機関は、要介護者について次のいずれかに該当する事実のあることを知った場合には、速やかに、意見を付して介護券を発給した保護の実施機関に通知しなければならない。
 一 要介護者が正当な理由なくして、介護サービスの提供に関する指導に従わないとき。
 二 要介護者が詐欺その他不正な手段により介護サービスの提供を受け、又は受けようとしたとき。



ということで、生活保護の指定医療機関や指定介護機関に対しては、都道府県などが必要な報告を命じたり検査を行うことは可能です。
また、不正に医療や介護を受けようとする被保護者がいれば、指定医療機関や指定介護機関は保護の実施機関(福祉事務所)に通知しなければなりません。

では、医療や介護に直接関係ない情報については、どうでしょうか。

いろいろな考え方ができるところですが、
「指定介護機関(医療機関)は、生活保護法に定めるところによるほか」
とあるところから、
生活保護法の規定を尊重すべき」とは言えるのではないでしょうか。

たとえば、生活保護法第61条に、
「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」
と規定されていますので、「世帯にはいないはずの人間が同居している」などの場合には、被保護者に対してケースワーカーへの報告を勧める、あるいはケースワーカーに直接連絡したとしても、個人情報保護法や居宅介護支援事業所の情報保護規定などに反しないという考え方ができると思います。

生活保護費の不正受給の場合には、当然、返還義務があります。
しかしながら、状況によっては返還方法を緩和することもあります。

不正の状況を知り得た人々(ケアマネなど)が早期に通報することにより、被保護者に対するペナルティが軽くなる可能性も考慮していただければ幸いです。