就労収入と生活保護費

生活保護見直し 自立を促し不正許さぬ制度に(5月11日付・読売社説)

(2012年5月11日01時28分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120510-OYT1T01392.htm

 経済情勢の悪化を背景に、生活保護の受給者が増え続け、210万人に迫っている。働く意欲のある人の自立を助ける制度改革が急務である。

 厚生労働省は、生活保護制度を改革するため、社会保障審議会に議論のたたき台を示した。秋までに「生活支援戦略」として具体化する。

 注目されるのは、新設を検討する「就労収入積立制度」だ。働いて得た収入の一定割合を積み立て、生活保護から脱した時にまとめて受け取る仕組みである。
(略)
 生活保護から抜け出したくても収入のよい仕事に就くのは容易ではない。徐々に収入を増やしていく、というのが現実だ。

 ところが現行制度は原則として働いて収入を得ると、その分、生活保護の給付額がカットされる。働いても働かなくても同じでは、生活保護から脱却しようという意欲をそぐ、と指摘されていた。

 それだけに、積立制度には効果が期待される。積み立て分は給付減額の対象とはならない。将来に備えることができ、就労、自立への意欲は高まろう。収入全体が増え、給付される公費も減る。
(以下略)
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社説の主旨に反対というわけではありませんが、
「現行制度は原則として働いて収入を得ると、その分、生活保護の給付額がカットされる」
「働いても働かなくても同じ」
というわけではありません。


第4回社会保障審議会生活保護基準部会(平成23年7月12日)

資料2「生活保護制度における勤労控除等について」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ifbg-att/2r9852000001ifii.pdf

2.勤労控除の種類

[1] 基礎控除[ 上限額 月額 33,190円(1級地) 勤労収入額8,000円までは全額控除 ]
 ※生活扶助基準改定率並びで改定
 ・勤労に伴って必要となる被服、身の回り品、知識・教養の向上等のための経費、職場交際費等の経常的な経費を控除するものであり、勤労意欲の増進、自立の助長を図ることを目的とする。
 ・基礎控除の控除額は、勤労収入に比例して増加させる方式(収入金額比例方式)を採用している。

[2] 特別控除[ 年間勤労収入額の1割 上限額 年額 150,900円(1級地) ]
 ※生活扶助基準改定率並びで改定
 ・勤労に伴って必要となる年間の臨時的な経費に対応するもので、年間を通じて一定限度額の範囲内で必要な額を控除するもの。

[3] 新規就労控除[ 基準額 月額 10,300円(各級地共通)就労から6か月間 ]
 ※物価伸び率で改定
 ・新たに継続性のある職業に従事した場合に、その勤労収入から一定額を控除するもの。

[4] 未成年者控除[ 基準額 月額 11,600円(各級地共通)]
 ※生活扶助基準改定率並びで改定
 ・20歳未満の者が就労している場合に、その勤労収入から一定額を控除するもの。
 ・単身の者や配偶者とのみで独立した世帯を営む者等の一定の条件にあるものについては認定しない。

※ この他に必要経費として、通勤費や社会保険料などが控除される。

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就労収入が増えた場合に、可処分所得がどのように変わるか、というイメージが、こちらの資料です。

イメージ 1


就労収入が増えるにつれて基礎控除(水色部分)が増加し、可処分所得の合計(赤太線)も上昇します。

就労収入の増加に対して可処分所得の増加が少なすぎるのではないか、という指摘はあり得ると思いますし、
その方向での議論もされていますが・・・

「現行制度は原則として働いて収入を得ると、その分、生活保護の給付額がカットされる」

「働いても働かなくても同じ」

というのは、新聞の社説の表現としては不勉強すぎると思います。


ちなみに。

たとえば、お母さんが病気で働けず、高校生のお子さんがアルバイトした場合を考えてみます。

就労収入
 賃金:月50,000円 交通費として月3,000円バイト先から支給 計53,000円
基礎控除
 別に定められた表で53,000円に対応する15,910円 (50,000円に対応する15,220円ではない。)
必要経費
 通勤費(実費):3,000円
未成年控除 11,600円

※ここまでで、53,000-(15,910+3,000+11,600)=22,490円 となります。

で、この22,490円が全額保護費から減らされるか、といえば・・・

高校等で就学しながら保護を受けることができるものとされた者の収入のうち、生活保護法による保護の基準別表第7「生業扶助基準」に規定する高等学校等就学費の支給対象とならない経費及び高等学校等就学費の基準額で賄いきれない経費であって、その者の就学のために必要な最小限度の額

については、収入認定をしないこととされています。たとえば、

生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日 社保第34号)

問58 高等学校等で就学しながら保護を受けることができるものとされた者がアルバイト等の収入を得ている場合、私立高校における授業料の不足分、修学旅行費、又はクラブ活動費(学習支援費を活用しても不足する分に限る)にあてられる費用については、就学のために必要な費用として、必要最小限度の額を収入として認定しないこととしてよいか。

答 お見込みのとおり取り扱って差しつかえない。

ということで、福祉事務所が認めれば、残額(この場合22,490円)についても、保護費を減らされずに使うことが可能となります。

なお、こういう取扱いのためには、収入申告が必要です。
ケースワーカーに隠していて、発覚してから頼み込んでも各種の控除等は認められないので、念のため。