性別変更の手術要件

性別変更の手術要件めぐり 特例法の規定は憲法違反 最高裁
NHK 2023年10月25日 20時10分 

性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする法律の要件について、最高裁判所大法廷は「意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」として憲法に違反して無効だと判断しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231025/k10014236581000.html

 

<以下抜粋>
25日の決定で、最高裁判所大法廷の戸倉三郎 裁判長は、生殖機能をなくす手術を求める要件について「憲法が保障する意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」として憲法に違反して無効だと判断しました。

一方、そうした制約の必要があるかどうかについて、
▽子どもが生まれ、親子関係の問題が生じるのは極めてまれで解決も可能なこと、
▽特例法の施行から19年がたち、これまで1万人以上の性別変更が認められたこと、
性同一性障害への理解が広がり、環境整備が行われていること、
▽海外でも生殖機能がないことを性別変更の要件にしない国が増えていることなどを挙げて「社会の変化により制約の必要性は低減している」と指摘しました。

憲法違反の判断は、裁判官15人全員一致の意見です。

一方、手術無しで性別の変更を認めるよう求めた当事者の申し立てについては、変更後の性別に似た性器の外観を備えているという別の要件について審理を尽くしていないとして、高等裁判所で審理をやり直すよう命じました。

3人の裁判官 “ただちに性別変更認めるべき”

検察官出身で2019年の別の人の申し立てでも審理を担当した三浦守 裁判官は、「要件を満たすには外性器を取り除く手術やホルモン療法を受けることが必要だ。手術は体を傷つけ、ホルモン療法も相当な危険や負担を伴う」と指摘し、この要件も憲法違反で無効であり当事者の性別の変更を認めるべきだとしました。

また、この要件が設けられた目的として「体の外観が法的な性別と異なると公衆浴場で問題が生じるなどの可能性を考慮したものだが、風紀の維持は事業者によって保たれており、要件がなかったとしても混乱が生じることは極めてまれだと考えられる」と述べました。

学者出身の宇賀克也 裁判官も「男性から女性への性別変更を求める人の場合には通常、手術が必要になり、意思に反して体を傷つけられる程度が大きくホルモン療法も重い副作用の危険がある」として外観に関する要件も憲法に違反すると述べました。

弁護士出身の草野耕一 裁判官は外観に関する要件について「意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心などを抱かされることがない利益を保護することが目的だ」と述べました。

その上で、「この規定を憲法違反だとする社会の方が、合憲とする社会よりも善い社会といえる」と述べ、この要件も憲法に違反するとしました。

弁護士出身の岡正晶 裁判官は審理をやり直すよう命じた決定を補足する意見を述べました。

この中では「今後、国会が生殖能力をなくすための手術の要件を削除すると考えられる」とした上で、「より制限的ではない新たな要件を設けることや、削除によって生じる影響を考え、性別変更を求める人に対する社会一般の受け止め方との調整を図りながら特例法のそのほかの要件も含めた法改正を行うことは可能だ」と述べました。
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個人的にまとめてみました。

空欄は争いがないか、判断なし(または私が調べ切れていない)。

意見が割れるかな、と思っていましたが、15人全員一致でした。
ただ、性器の外観要件については、実質的に割れています。

「即時違憲」の3名のうち、三浦裁判官は「風紀の維持は事業者によって保たれており」と述べており、戸籍上は女性になっても身体が男性なら「女湯利用拒否」で問題ないという主張のようです(青色)。それは理解できます。

草野裁判官の意見は<「外観要件(意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心などを抱かされることがない利益)を合憲とする社会」よりも、「違憲とする社会」の方が善い社会>と解され(茶色)、これは私の意見とは明確に異なります。

 

今後、高裁差し戻し審でどうなるか、そのあとも最高裁まで行くでしょうから確定するのは年月がかかるでしょう。

ただ、当事者団体は、手術要件はともかく、女湯の利用まで求めているわけではありません。

<参考>LGBT団体の見解など
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2023/07/01/165347

さらに、手術を経て女性になった当事者からも、今回の判決に反対している人もいるので、なかなか難しい問題ではあります。

 

「手術は唯一の客観的基準」 手術で性別変更の女性、最高裁決定に憤り
産経新聞 10/25(水) 18:53配信

性同一性障害特例法の規定は私たちと社会との『約束』。それを覆す判断は認められない」。性別適合手術を経て女性に性別変更した当事者で「性同一性障害特例法を守る会」代表の美山みどりさん(61)は、生殖不能要件を「違憲」とした25日の最高裁決定に憤りをあらわにした。

「私たちは手術を受けることで社会に受け入れられてきた」とする美山さんらは8月以降、最高裁に生殖不能要件をはじめとした手術要件を違憲としないよう求めて署名活動を行ってきた。性同一性障害の当事者を含め、2万筆を超える賛同が集まったという。

美山さんは多様な生き方を尊重しつつも「手術は、客観的に性別変更の証明が可能なほぼ唯一の手段。それが社会の判断の根底に置かれるべきだ」と説明。今後、生殖不能要件が撤廃されれば「当事者が警戒の目で見られ、差別が一層深まることも考えられる」と懸念する。

海外でも性自認をめぐって社会の分断が生じており、「社会全体で丁寧な議論を積み重ねていくことが重要だ」と訴えた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/0f673c302b564b3688dc0f7ad0abbc3a499f407b