「米英特殊部隊が前線突破」説

去年9月「ハルキウの大攻勢」の前線を突破したのは、実は「休暇中のアメリカ・イギリスの特殊部隊」だった…!?《ロシア専門家・佐藤優がひも解くウクライナ戦争の真相》
現代ビジネス 6/12(月) 7:04配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/6cb956e3936e62f8a48530848636a998212f9ed0?page=2

 

佐藤優氏が「おもしろいこと」を書いています。

 

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 一方で、ハルキウ州が手薄だという情報をつかんだのは、アメリカの軍事衛星です。ペンタゴン(国防総省)はウクライナにその事実を伝え、ウクライナ軍はロシア軍の8倍もの兵力を投入して一気に攻勢をかけました。

 戦争の教科書では、兵力の差が1対3以上になったときには、全滅か捕虜になるかいずれかの選択しかありません。全滅を避けるためにロシア軍は、オスキル川を渡って川の向こうに逃げました。

 その際、ハルキウ州の攻防戦で前線を突破したのは、ウクライナ正規軍ではなくアメリカとイギリスの特殊部隊員です。「休暇中」という名目で、米英の特殊部隊員によって構成された事実上の傭兵部隊が前線に送りこまれてきた。西側諸国が兵器を送りこむのはまだロシアも我慢できるものの、もはやこれは容認の限度を超えています。

 「事実上西側諸国が参戦しているに等しいではないか」とプーチンは激怒しました。
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この引用部分以外にもツッコミどころはあると思いますが、とりあえず。

 

ウクライナ正規軍ではなく米英の特殊部隊員が前線を突破」というのは、私が知っている程度(つまり、佐藤氏なら知っていたとしてもおかしくない)の軍事上の常識からはあり得ないと思いますが、この話は、ハリキウ州でロシア軍が敗退した当時は全く出てきていなかった情報です。
(私が知る限り、ロシア軍やロシア政府からの発表の中にもなかったと思いますが・・・)

 

米英など西側諸国が手を貸したとすれば、文中にもあるように軍事衛星などからの情報提供がまず重要。
そして、特殊部隊が裏で活躍したことがあったとすれば、ロシア側がゼレンスキー大統領を拘束(または殺害)しようとした緒戦でロシア軍の特殊部隊等を撃退したときではないかと考えられます。
訓練などで金をかけた虎の子の特殊部隊を、傭兵部隊として主要戦線に送り込むのは、非常にもったいない。

 

では、なぜ今になって佐藤氏がこんな情報を発信したのか。
情報源としては、ロシア側と考えるのが自然でしょう。
ロシア側に協力する意図があってこの文章を書いたのか、意図はなかったがロシア側からの情報を信じてしまって書いたのか、それはわかりませんが。

ただ、日本維新の会参議院議員鈴木宗男氏に比べたら、まだしも佐藤優氏の情報の方が信用できる部分があるのではないか、という考え方は、ほぼ否定されてしまいました。
(これは佐藤氏に悪意があるかどうかということではなく、情報の取捨選択の能力の問題というべきでしょう。これをひっくり返すためには、少なくとも「特殊部隊」云々の情報の根拠を示していただく必要があります。)

でも、まあ、仮に「米英の休暇中の特殊部隊員」が加わってロシア軍を撃破したとしても、別に(ロシアが国を挙げてやっているような)戦争犯罪にはならないからいいんですけどね。
ただ、ロシア側の情報として、なぜこのようなことを言い出したか、というのは推測できるかもしれません。

ひとつは、ロシアがウクライナより弱くて敗退したのではなくて、米英が「(ロシア側から見て)不当に」手を貸したからだ、という言い訳であることが考えられます。
でもそれは、米英にイチャモンをつけるというよりも、ロシア軍側のプーチン氏に対する弁解のようにも思えます。

プーチン氏は「西側がロシアを滅ぼそうとする」という妄想にとらわれているところがありますから、たぶん、それなりに有効な弁解だったかもしれません。