合理的判断をするという思い込み

日本維新の会参議院議員鈴木宗男氏のブログより一部抜粋。

 

6月9日
(8日の第三者からのコメントに対して)
ヘルソンのダム破壊はロシアがやることはないと思います。それはあのダムはクリミアの水源地だからです。

6月10日
(9日の第三者からのコメントに対して)
ヘルソンのダム破壊、ロシアのクリミアにとっては大事な水源です。どう考えてもロシアがやる理由はないと思います。

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たしかに、カホスカのダムが、ロシアが違法占領しているクリミア地方の水源になっていることは事実でしょう。
ただし、そのことが、ダム破壊の責任がロシアにないことの証明にはなりません。

まず、ウクライナ側が破壊することは、デメリットが多すぎます。
1)下流の人命はもちろん、都市基盤、農地など社会資産の被害が甚大
2)飲料水、農業用水等の不足が強く懸念される
3)クリミア方面などロシア側支配地域への攻勢が難しくなる
4)ロシア側が埋設した地雷が下流に流されて危険(これは事前に想定可能だったかわかりませんが)

3については、ロシア側のメリットにもなります。

ドニプロ川(ロシア語表記ドニエプル川)の下流域が、ダムから押し寄せた大量の水で湿地帯になると、ウクライナ側の戦車隊等がクリミア方面に進撃することが難しくなるため、ロシア軍を他の戦線にシフトすることが多少なりとも可能になります。

 

地図で見るとこんなイメージです(紫で囲んだあたりがダムの下流域)。

(文字が覆い隠していますが、クリミア半島は、だいたいこのあたりにあります。)

 

もちろん、クリミアの水源が不足する恐れがあることと、3の防御上のメリットとを比較すれば、通常は(たとえば欧米側の民主主義国なら)ダムを破壊することを躊躇するでしょうが、ロシアの場合は住民生活上のデメリットよりも軍事上のメリットを優先する傾向があります。
また、たとえば仮にクリミアの民政上のトップが反対していたとしても、軍側が勝手に決行してしまうという可能性もあります。
「大事な水源だから絶対にやらない」というような、統制が取れた国の組織ではない可能性が高いです。

なお、ロシア軍のトップも、ダムの破壊を命令しなかった、という可能性も、現時点では全く否定できないのかもしれません。
つまり、不幸な事故か、命令の誤伝達など、意図せずダムが壊れた、というようなケースです(考えにくいことではありますが)。
しかし、そうであったとしても、ダムを管理していたのはロシア軍ですから、ロシアの責任であることは当然です。

 

そもそもロシアが違法にウクライナに侵攻し、ダムを占領していなかったら、このようなダム破壊も起こらなかったのですから。

鈴木宗男氏は、これらの点を見落としているか、あるいは故意に避けているのでしょうか。

 

もっとも、どこかの政府なり軍なりが、合理的な判断をするだろう、という思い込みは、鈴木氏以外でも陥りがちなことではあります。
民主主義国(というより、ある程度以上の報道の自由がある国では、たとえば与野党の力関係等によっては合理的判断ができない事情が表に出やすいですが、中露のような国では、そのあたりが見えにくいので。