再論・平昌五輪三位決定戦

古い話です。
平昌オリンピック女子カーリングの三位決定戦の英国の最終投のことを記事に書いたことがありますが、
https://jukeizukoubou.blog.fc2.com/blog-entry-2481.html

この試合についてAIで分析した記事を見つけました。

 

<平昌五輪2018>◾3位決定戦 ギリギリの最終局面 イギリスを追い込んだラストショット AI戦略分析/北海道大学大学院情報科学研究科 山本雅人教授【ロコ・ソラーレ アーカイブ
北海道新聞 2018/02/25 17:05
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/637131

 

カーリング戦略AI「じりつくん」というのは、最近になって存在を知りましたが、この平昌五輪の頃にはすでにあったのですね。
以下、その記事も参考に、三位決定戦の英国戦を、7E(エンド)終了時点から振り返ってみます。

 

7E終了 日2-3英 (「じりつくん」予想:日本の勝率44%
日本は1点リードされているが、次は有利な後攻。複数点取りたいところ。

8E 後攻:日本 藤澤最終投で1点のみ獲得。日3-3英日37%に低下)
次は日本が不利な先攻。英国は2点(以上)を狙ってもよいし、取れなさそうならブランクエンド(双方無得点)にして後攻を維持したまま最終エンドをむかえてもよいところ。

9E 先攻:日本 藤澤最終投で英国のガードの裏側に回り込み、出しにくい好位置でNo.1に。(日55%に勝率上昇)
   後攻:英国 最終投で自軍のガードに当てて日本のNo.1とともに出す(ピール)を狙ったが、日本のNo.1が残った。日本1点スチール。日4-3英日59%

10E 先攻:日本 藤澤最終投で、No.1となる位置を狙ったが、手前の自石に接触してNo.3にとどまった。(図1)

 

 

   後攻:英国 最終投で、No.3(日)に当てて、No.2(日)とともにテイクアウトすることを狙った。(このショットを選んだとき、英26%=日74%
   結果は、No.3(日)が中央近くに残り、No.1となった。
   日本スチール、日5-3英。日本が銅メダル獲得。

 

 

 

平昌五輪直後の私の記事では、英国最終投の意図がはっきりとはわからなくて、図2の黒と赤の矢印の間のどこか、と逃げたのですが(笑)
図3のような狙いだったようです。ただし、No.3(黄色)が黄緑色の矢印のようには飛ばず、中央付近に残ってNo.1となってしまいました(黄色の矢印)。)
なるほど、こういう意図だったのですね。

「じりつくん」は、英国がこのショットを選択したときの勝率を、No.1(赤)が飛びすぎる可能性を考慮して低く見積もっていたようです(図4の黒点線)。
実際にはNo.1はそれほど外に出なかったのですが、完全に出すはずのNo.3(黄色)が中央付近にとどまるという計算間違いが起きました。

 

 

ちなみに、「じりつくん」が最善と考えた英国のショットは、図4のオレンジ色のコースです。図では見えませんが、赤のコーナーガードに当てて、角度をつけてNo.3(黄色)にぶつけるという。
もちろん、コーナーガードに当ててコースを変えるというのは難しいショットなのですが、このショットに失敗した場合には中央付近のNo.3やNo.1には触らない可能性が高く、つまり赤のNO.1は動かない。ということは、英国の1点獲得は確実で、同点に追いついてエクストラエンド(延長)に持ち込むことができる、というわけです。
このショットを選択したときの英国の勝率は50%(じりつくん)。

そして、エキストラエンドでは英国は先攻に回りますから、その時点での勝率は日本有利になるはずです。
それでも、英国最終投の選択時点で、その「50%」が最善、ということは、「じりつくん」としては、その局面(英国最終投の直前)は、英国有利とは判断していなかった、ということになります。

 

なるほど。
私は平昌五輪の直後は、「意外に難しい場面で、英国はドローショットでもう1点を取りに行くぐらいだったかな」ぐらいの認識でした。
英国側や日本カーリング界では、「英国有利の局面でミュアヘッド選手が痛恨のミスをした」という声が主流のような印象でした。
「じりつくん」は、もちろん私よりは理論的にではありますが、英国有利とまではいえない(最善で英国の勝率50%)と判断していました。

AI「じりつくん」が絶対正しい、と主張するつもりはありません。
「競技者の直感」が、いつか理屈づけられて解明される可能性もあります。

しかしながら、カーリングにはさまざまな考え方ができること、奥深い楽しみがあることについては、間違いなさそうです。

日本の勝因として挙げるなら、やはり9エンドの1点スチールでしょうか。
その前の8エンドで複数点取りたいところが1点で終わってもあきらめず、9エンド、10エンドと不利な先攻で相手にプレッシャーをかけ続けたこと、というべきかもしれません。

 

日本選手権の記事で、ロコ・ソラーレは不利な先攻を苦にしていない印象、と書きました。
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2022/06/13/223553

もちろん、彼女たちに質問すれば、「(有利な)後攻の方が好き」という回答が返ってくると思いますが、相手側が後攻でも油断できない、いやらしいチーム(注:ほめています)といってもよいと思います。