年功序列と成果給

首相「年功序列の賃金体系見直しを」 再開した政労使会議で
(2014/9/29 17:06)

 政府は29日夕、政府と経営者、労働界の代表で構成する政労使会議の会合を首相官邸で開いた。安倍晋三首相は会合で「賃上げの動きは力強く広がっている。動き始めた経済の好循環を拡大するためには、労働生産性の向上を図り、企業収益を拡大させ、賃金上昇や雇用拡大につなげていくことが重要だ」と指摘した。

 政労使会議は昨秋から年末にかけての開催以来、約9カ月ぶりの再開となった。首相は「働き方の見直しは昨年も俎上(そじょう)に上ったが、十分な議論は尽くされていない」とし、女性や高齢者の労働参加を促す政策への見直しを求めた。

 首相は働き方の改革について「第1に年功序列の賃金体系を見直し、労働生産性に見合った賃金体系に移行することが大切」と強調。女性や高齢者の労働参加を促すよう「ワークライフバランス」の見直しや、職業訓練を通じた労働移動の円滑化についても検討するよう指示した。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL29H7S_Z20C14A9000000/
 


 
年功序列型の給与体系から業績給、成果給への変更については、さまざまな場で議論されていますし、
ベンチャーだけでなく既存の大企業などでも導入されてきているところはあるようです。
 
で、下手なイメージ図を。
 
イメージ 1
 
青色の線が、従来の年功序列型給与体系のイメージです。
実際には、このように一直線の右上がりではなくなってきています(公務員などでもある程度の年齢からはよほどのことがない限り昇給しない体系になっていたりします)が、あくまで単純化したイメージということで。
 
一方、赤色のやや太めの線が業績主義、成果主義の給与体系のイメージです。
これまた、若い頃に業績が上がりやすい職場、経験があった方が有利な職場など、さまざまでしょうが、
一般的な職場の、平均的な能力の従業者のイメージということで。
 
年功序列型では、従業者の生涯賃金は、緑色の部分+水色の部分。
業績給型では、黄色の部分+緑色の部分(*)。
両者が合計では同じぐらいと仮定すると(まあ、平均的な能力の従業者、という設定なので)、
年功序列型では、本来は若いときに支給すべき黄色の部分の給与を、高年齢になってから後払いする(水色の部分)、という考え方ができます。
 
もしも、この図の中央付近、青線と赤線の交点付近で給与体系が変わったとします。
青色(年功序列型)から赤色(業績給型)に。
 
そうすると、その年代の従業者の生涯賃金は、緑色の部分だけになってしまいます。
つまり、生涯収入の大幅ダウン。
 
給与体系の変更点が、多少前後にずれたとしても、本質的にはあまり変わりません。
年功序列型給与体系から業績給・成果給型に変わるとすれば、何か特別な配慮をしない限り、その人の生涯収入は減ります。
 
さらに、定の年代層、特定の世代の人々の生涯収入が減少するということは、個人の問題だけでなく、社会全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
つなり、その世代の人々が人生の中で経済的支出を伴うようなイベント時期に差しかかったとき、その支出が前後の世代に比べて落ち込み、その時代の経済活動に悪影響が出る可能性です。
 
たとえば、出産、子育て、子の教育、マイホームの取得、子の結婚、老齢になってからの介護等に関する支出、といったものです。
これらの支出が減ることにより不況が起きる恐れがあります。
ベビーブーム世代が社会的需要を拡大したのと逆の現象ですね。
 
あるいは、生活保護を典型例とする財政支出の増加もあり得ます。
 
とはいえ、年功序列型給与体系のみで今の経済活動が維持、あるいは発展できるか、というと、やはり厳しいでしょう。
すでに終身雇用の枠から(自主的か、そうでないかは、さまざまですが)はみ出した人々は少数ではありません。
 
最初から年功序列型でない企業は別にして、実際にどのような給与体系にすべきか、経過措置的なものが必要か、複数の体系の組み合わせか、等、いろいろ悩んでいる経営者は少なくないと思います。
(業績型にしても評価が難しいんですけどね。前記事の中村修二さんのようにノーベル賞級の業績でも、成果が出るまでには相当の年数がかかることが珍しくありませんから。)
 
だから、暴騰の報道に話題を戻して、
「第1に年功序列の賃金体系を見直し、労働生産性に見合った賃金体系に移行することが大切」
などと首相がもっともらしいようなことを言うだけでは、後世に問題を残すだけ、ということになりかねません。
 
*:「黄色の部分+水色の部分」と書いていたのを2014/10/16訂正。その他のミスもドサクサのうちに修正。