統計資料で遊んでみる5

このシリーズのまとめ、というよりは、補足、蛇足、余談になるかもしれません。
 
介護保険の給付対象から軽度者(要支援、あるいは要介護1以下、過激な主張としては要介護2以下)を外そうとする意見は、財政関係者だけでなく、財界トップからも出されたりします。
 
それに対して、
「軽度のときにしっかりケアすることで重度化を防ぐ。そうすれば、お金も逆にかからないのではないか。」
「軽度を切り捨てれば、なおさらお金がかかるのではないか」
「生活援助と並行して生活機能向上の支援を行うことによって重度化防止ができる」
「軽度者の介護予防は、高齢者の自立による尊厳と介護保険制度の安定運営のかぎである。」
など、まともな意見も審議会で出されていることは、こちらのリンク先と、その前の数記事で触れました。
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/28727554.html
 
その根拠のデータを提示、というよりは、
根拠のデータを出すにはどういう方法が考えられるか、
という観点で、ここまで書いてきたつもりです。
 
重度になるほど、受給者(認定者ではない)1人当たりの利用額(*償還払いを除く)が格段に多くなることも、
「軽度を切り捨てれば、なおさらお金がかかる」という論拠のひとつでしょう。
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/31862607.html
 
反対意見はあると思います。
たとえば、切り捨てられた軽度者の全てが重度化するわけではない、と。
 
私もそう考えます。
でも、こちらの表の左端のように、全く「影響なし」ということはないと思います。
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/31862673.html
 
現在の軽度者を、いくつかに分類するとします。
 
1)サービスを利用して介護度を維持改善している人々
2)サービス(*)を利用しなくても介護度が維持改善できている人々
3)サービスを利用せず、介護度が重度化する人々
 
2の人々は(*印については後述)、本人の体質、生活習慣、家族等の支援など、さまざまな条件がプラスに働いたと考えられます。
(この介護予防に適した「生活習慣」については、調査・分析していく価値はあると思います。)

3の存在は残念ですが、虐待時の措置などを除いて、周囲が無理やりサービスを受けさせることは困難です。
 
1の中には(審議会委員等も納得しやすい例を挙げれば)介護予防通所リハビリも含まれますから、サービスを使えなくなると重度化する人々の割合は、絶対にゼロにはなりません。
だから、現在の軽度者への給付額をもって「削減の経済効果」とする主張があったとしても、それは成り立ちません。
 
あ、一部の御用ガクシ・・・じゃなくて、財政当局や財界の考え方に近いシキシャは、上記以外に
「サービスを利用したがために、かえって介護度が悪化する人々」
というカテゴリーの存在を主張するかもしれませんが、これは無視してよいと思います。
こちらの記事で推計したように、要介護1で月8.6時間、週のうち2時間余りだけの生活援助が廃用症候群を作るというのは、無理がありますから。
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/31868253.html
 
「1)サービスを利用して介護度を維持改善している人々」が、介護保険からサービスを受けられなくなった場合、それでも心身の状態や生活状況が悪化しなかったとしたら、それは家族の支援があったり、民間の有償サービスを利用したりということが主因でしょう。
 
家族や、経済状況に余裕があればよいのですが、そうでない場合には弊害が出ます。
家族が、いわゆる常勤から非常勤、あるいは退職となると、企業の人材確保にも支障が出ます。
個人の給与所得が減ると、年金などを含めた社会保障費用などにも影響を及ぼすでしょう。
(たぶん、こういう問題は、財界トップも認識していません。)

最後に、*印について。

「1人当たりの利用額(*償還払いを除く)
と書きましたが、多くの自治体では住宅改修費や福祉用具購入費は償還払いです。
つまり、軽度者(どの介護度で線を引いても)介護保険の給付から除外されると、住宅改修や福祉用具購入も対象外となります。
 
「2)サービス(*)を利用しなくても介護度が維持改善できている人々」
の中にも、住宅改修などは使って、あとは本人の努力や家族介護などで在宅生活を維持している人々はいるでしょう。
 
手すりの設置や、洋式トイレへの変更(できればウォッシュレット付き)などは、軽度者にも効果がある
というより、軽度者ほど効果が高いといってもよいかもしれません。
 
こんなものを介護保険から除外するのは、制度の(ほとんど)自殺行為です。