ひきこもりの犯罪率は低い

和歌山の漁港での首相襲撃事件は、まだ解明されていません。
が、容疑者が最近ひきこもりがちだったという報道もあります。
こういう事件が起きると、ひきこもりの人々についての偏見が強くなるのではないかと危惧されます。


ひきこもりを「犯罪者予備軍」扱いする人の愚行
加害者がひきこもりの殺人はわずか0.2%
東京経済ONLINE 2020/03/08 5:30 桝田 智彦 : 臨床心理士 
https://toyokeizai.net/articles/-/327908

なぜ「ひきこもり=犯罪者予備軍」という間違ったイメージが世の中で拡散されてしまったのか? その理由と実際の状況について、新書『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』などの著作を持つ臨床心理士の桝田智彦氏が解説します。
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 自己肯定感があまり持てなかったり、就活でつまずいたり、解雇されたり、いじめや、親の介護などで退職したり、あるいは、再就職した先で屈辱的な思いをさせられたり……。生きていれば、誰にでも起こりうるこのようなことがきっかけとなって、今、多くの人たちがひきこもっています。

 つまり、ひきこもっている人たちの大半は少し運が悪かっただけであり、善良で、心やさしく、人づきあいも人並みにできる、ごく普通の人たちなのです。
(略)
 しかし、ここで声を大にして伝えたいことがあります。それは、「ひきこもり=犯罪者予備軍」では決してないということです。私どもは21年以上、カウンセリングを通して数多くのひきこもりの方々と関わってきましたが、他人を傷つける重大な他害案件に遭遇したことはただの1回としてありません。
(略)
「ひきこもりの犯罪率」は高くない

 ひきこもりに関して著名な筑波大学医学医療系社会精神保健学教授の斎藤環先生も、2019年7月9日号の『婦人公論』で、登戸の事件と元農林水産省事務次官の事件を念頭に、ひきこもりと犯罪の関係について次のように語っていらっしゃいます──。

 「私が今回のことで強調したいのは、家庭内暴力の延長線上に、通り魔的な暴力があるわけではない、ということです。この2つは方向性がまったく違う。現在のひきこもり人口は、100万人規模に達しているという内閣府の統計があります。しかし、それだけ当事者がいながら、明らかにひきこもりの人が関わったという犯罪は数件しかない。とくに無差別殺人のような重大犯罪は今まで見たことがありません」

 斎藤先生は最後に、「ひきこもりは決して犯罪率の高い集団ではない」と言い切っているのです。

 しかし、斎藤先生のお話以上に説得力のあったのが、東京新聞の2019年6月6日の「こちら特報部」の記事です。「こちら特報部」では共同通信の記事データベースに当たり、殺人・殺人未遂の容疑者・被告で、ひきこもりと報じられたケースが何件あるかを調べました。その結果、1999年から2019年までの20年間で43件あり、これを年平均にすると約2件だったのです。

 さらに、記者たちが警察庁のまとめた各年の犯罪情勢を調べたところ、殺人の件数は1999年に1265件、2003年頃に1400件を超えましたが、それ以降は減少傾向にあります。過去5年間では年間900件前後です。

 ひきこもっている人間が起こした殺人の年平均2件という数字は、過去5年間の900件前後という全体件数のわずか0.2%でしかないことを東京新聞は証明してみせたのです。ひきこもりの人間が起こした殺人事件は全体のわずか0.2%──。ひきこもりが犯罪者予備軍ではないことを示す決定的な数字です。
(以下略。引用ここまで)
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臨床心理士としての経験等を踏まえた卓見ではあるでしょうが、殺人の全体件数のうちの0.2%といわれても、犯罪率が低いという証明とするにはわかりにくいと思います。

ひきこもりの人々の推計数のうち加害者となった件数がどれぐらいの割合か。
一般(総人口)のうち加害者となった件数がどれぐらいの割合か。

この両者を比較してみます。

ひきこもりの人々の推計は難しいところですが、
平成25年版 子ども・若者白書(全体版)(https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h25honpen/b1_04_02.html)によると、
満15~34歳のうち「狭義のひきこもり」が23.6万人、「準ひきこもり」(自分の趣味に関する用事の時だけ外出する)が46.0万人、両者合わせた広義のひきこもりを69.6万人と推計しています。

令和元年版 子供・若者白書(全体版)(https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01honpen/s0_2.html)では、
満40~64歳までのうち、広義のひきこもりを61.3万人と推計しています。

そうすると、満15~64歳では「100万人規模に達している」という引用記事中の数字を使っても、多すぎることはないでしょう。

 

ひきこもり推計数を母数とした比率
 2件/100万人×10,000=0.02(1万人あたりの件数)

総人口を母数とした比率
 900件/126,146千人(2020国勢調査)×10,000=0.07(1万人あたりの件数)

荒い計算ではありますが、ひきこもりの人々が殺人事件等を起こす確率は、一般の人々よりははっきり低いといえます。
(実際には、ひきこもりの人々の実数はもっと多いと思われるので、「犯罪率」はもっと低くなります。)

 

本件については、そもそも弁護士を使わず本人訴訟ができるような人物が「ひきこもり」の定義に合致するのか、というツッコミもありますが。