参院R4.3.29会議録1

以前、「グレンコ氏の答弁」という記事を書きましたが、
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2022/04/01/211640

 

その参議院外交防衛委員会の会議録が2か月半以上経って(やっと)掲載されました。

 

第208回国会 参議院 外交防衛委員会 第5号 令和4年3月29日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120813950X00520220329¤t=6

 

以下、個人的関心のまま抜粋します(文字強調も当方で行いました)。
気になる方は、この上のリンクから全文をどうぞ。

 

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 出席者は左のとおり。
 委員長 馬場成志
 理事(略)
 委員(略)
 国務大臣 外務大臣 林芳正
 副大臣 外務副大臣 小田原潔
     外務副大臣 鈴木貴子君
 参考人
  元駐ロシア大使館特命全権公使 河東哲夫君
  慶應義塾大学総合政策学部准教授 鶴岡路人君
  国際政治学者 グレンコ・アンドリー君

 本日の会議に付した案件
○外交、防衛等に関する調査(ウクライナをめぐる諸問題に関する件)
○(略)

 

○委員長(馬場成志君) 外交、防衛等に関する調査のうち、ウクライナをめぐる諸問題に関する件を議題といたします。
 本日は、本件調査のため、三名の参考人から御意見を伺います。
 御出席いただいております参考人は、元駐ロシア大使館特命全権公使河東哲夫君、慶應義塾大学総合政策学部准教授鶴岡路人君及び国際政治学者グレンコ・アンドリー君でございます。(略)

参考人(河東哲夫君)
(略)元々ウクライナというのは古い歴史を持ったところであります。これの右側の方に、キエフのところにドニエプル川が走っているんですけれども、ここを使ってバルト海とそれからコンスタンチノープルを結ぶ通商路として発展したのがキエフであります。ですから、スラブ民族なんですけれども、スラブの本家はむしろウクライナの方にあるわけですね。ロシアはロシアが本家だって言っていますけれども、むしろウクライナの方が本家であります。
 それから、そのウクライナにはコサックという連中が東側の方にいますけれども、コサックはこれはロシアから逃げてきた連中であります。だから、必ずしもそういった人たちはロシアに戻りたいという意識は持っていないわけです。ウクライナは分かれております。(略)
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この頃は、まだロシア語表記から「キエフ」「ドニエプル川」だったのですが、今はウクライナ語表記に近い「キーウ」「ドニプロ川」に変わっていますね。
なお、河東氏がいう「むしろウクライナが本家」という考え方は、同意する人が増えてきているように思います。東部でも「ロシアに戻りたいという意識は持っていない」件も。

 

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参考人(グレンコ・アンドリー君)
(略)よく言われるのは、ロシアの目的というのは、例えばウクライナの中立化だったりとか、ウクライナがロシアと西側、NATO諸国との間の緩衝地帯になるとか、その戦略的な観点からロシアの意図が議論されています。
 しかし、これは実はそこまで大事なことではなくて、根本的な問題は別にあります。(略)プーチン大統領を始めとする現代のロシアの指導層というのは二つの考え方に基づいて動いています。一つ目は、一九九一年のソ連崩壊は間違いだったという考え方と、もう一つは、ウクライナ人とロシア人は一つの民族だという考え方に基づいているんですね。
(略)彼らから見ると、間違いだったソ連崩壊をもう一回復活する、つまり、旧ソ連諸国は本来ロシアの領土だから、もう一回、そういった国々をもう一回ロシアの領土にするというのはプーチン大統領を始めとするロシアの指導層の考え方なんですね。
 その中でももう一つ大きいのは、ロシア人とウクライナ人は一つの民族だと彼らは考えているんですね。一つの民族だから、彼らから見ると一つの国になるべきなんだというふうに考えています。
(略)彼らから見ると、ウクライナを軍事力で占領して征服することが彼らの正義なんですね。つまり、彼らには悪いことをしている自覚は一切ないんですね。完全に正しいことをやっているという認識です。正しいことをやっているので、彼らの道徳心だったりとか良心だったりとか、そういったものに訴えても意味がないんですね。彼らは信念、価値観に基づいてやっているんですね。
 だから、今回のウクライナ侵略、ウクライナにおける戦争というのは、ロシアがウクライナを全土占領して完全に自分の領土にするのが目的なんですね。この目的は昔から一貫して変わらないんですね。今まで、例えば二〇一四年のクリミア侵略だったりとか、同じ二〇一四年のウクライナの東部、ドンバスへの侵略だったりとか、そういうものは全て後々ウクライナ全部を占領して併合するための準備段階だったんですね。そして、この二〇二二年に入ってから、もはやウクライナを完全に支配するには直接の軍事力を使うしかないとプーチン大統領が判断したと思われます。
 それでは、ロシアが侵略の口実として言っているNATO東方拡大という問題があるんですけど、これは現実と何の関係もない議論ですね。実は、NATO拡大というのはそもそも表現として間違っています。一九九一年以降、NATO北大西洋条約機構に加盟した全ての国は自分の意思で加盟しているんですね。無理やり入れられた国が一つもないんです。
 では、何でその国々がNATOに入っているかというと、諸国はロシアの脅威があるから入っているんですね。つまり、再びロシアに侵略されるのが怖い、だから集団防衛体制に入るんですね。それをロシアは非常に嫌がるんですね。なぜ嫌がるかというと、それはNATOがロシア本国にとっての脅威だからではなくて、NATOに入った国をこれ以上侵略できないからなんですね。
 ロシアはウクライナ以外にもほかの国に侵略したいんですね。例えばバルト三国ですね。でも、できません。できない理由はNATOに入っているからです。だから、もし、例えばウクライナ、あるいはモルドバ、あるいはジョージアNATOに入るとどうなるかというと、その国々をこれ以上ロシアは侵略して征服できなくなるんですね。だから、これほど必死にNATO加盟に反発しています。
 つまり、目的は、NATO加盟、NATO拡大を止めること自体ではなくて、その国々の侵略が妨害されるのが嫌だからNATO拡大に反発しているんですね。なので、このロシアの戦争の目的は、ウクライナの完全支配、完全な征服と併合という前提の上で考えていただきたいんですね。
(略)これからそれはどうなるかというと、戦争が長引くと思われます。目的達成までロシアは諦めないからなんですね。
(略)重要なのは、仮に休戦になったとしても、目的が変わらないわけだから、次の戦争は必ず起きるんですね。(略)休戦になっている間にロシアは次の戦争の準備を間違いなくします。一〇〇%します。なぜなら、目的はウクライナ完全制圧というのが変わらないからなんですね。だから、今回休戦になったところで、それは大きな戦争の終結ではなくて、あくまで大きな戦争の延期にすぎないんですね。だから、仮に休戦になったところで、ロシアは今回の作戦失敗を反省して、今度こそウクライナ全土を確実に制圧する作戦を練って、それに基づいてウクライナを再び攻撃します。少なくとも、ロシアはそれを計画するのが一〇〇%なんですね。
 それでは、これからどうすればいいのかという問題は一番大事かと思います。
 ロシアは、当初作戦が失敗した後で、意図的に民間人を狙うようになりました。民間マンション、高層マンションだったりとか防空ごうだったりとか避難所だったりとか、そういったものをわざと空爆や砲撃を行います。目的は何かというと、わざとなるべく多くの民間人の犠牲者を出すことです。
 なぜそうするかというと、ロシアから見ると、ウクライナ人、ウクライナ国民から侵略に抵抗する意思を奪いたいからなんですね。なので、なるべく多くの民間人の犠牲者を出して、出すことによって、多くのウクライナ人はもう降伏してもいいからとにかく殺りくを止めてほしいと思うようにするのがロシアの目的なんですね。だから、ウクライナ人の抵抗する意思を奪う目的でわざと民間人の犠牲者をたくさん出している状態なんですね。これはもちろん全く受け入れられない完全な戦争犯罪なんですけど、もう残念ながらそれはロシアの戦略になっています。
 その状況で、この殺りくあるいはこの戦争全体をどう止めればいいのかという問題は一番大事かと思うんですけど、ここはやっぱり、ロシアから戦争を継続する能力、特に財力をロシアから奪うことが大事になります。もちろん、ウクライナは実際戦っているんですが、ほかの国々は派兵して一緒に戦うことはなかなか難しい、無理だと思われています。では、派兵しないでどのようにほかの国がこの戦争を止められるのかというと、それはやっぱり経済制裁となります。
 既に多くの自由民主主義諸国、日米欧の民主主義諸国は多くの制裁を実施しています。実施していますが、今の制裁はやっぱり即効性は乏しく、効果が出るまでにしばらく時間が掛かるんですね。なので、もっと本格的な即効性のある制裁を実施するべきですね。例えば、アメリカが発表したように、ロシアのエネルギー資源を買わないようにすることですね。あるいは、全体的にロシアとの貿易を一度止めることなんですね。
 もちろん、貿易を止めれば、自由民主主義諸国の国民も痛い思いをします。アメリカの国民、ヨーロッパ諸国の国民や日本国民も生活が苦しくなります。それは間違いないんです。
 しかし、ここで御理解いただきたいのは、生活が苦しくなることと大量に殺されることとどちらがつらいのかという問題ですね。私は、やはり殺される方がつらいと思います。それで、もし自由民主主義諸国の国民、例えば日本国民が、生活は今より少し苦しくなったことによってウクライナ人の命を救える、ウクライナ人を殺りくから救えるということであれば、一時的に我慢してもいいのではないかという考え方もあるんですね。
 私は、なるべくこういう考え方に基づいて動いていただきたいんですね。もし全ての自由民主主義諸国、日本、ヨーロッパ、アメリカが同じ共通認識に基づいて動いて、みんな力合わせてロシアに対して最大限に厳しい経済制裁を実施することができれば、ロシアは早い段階で財政破綻に陥って、早い段階でロシアが戦争を継続する能力、つまり戦費に使うお金と占領地の維持管理に使うお金がなくなるんですね、早い段階で。そのお金がなくなれば、ロシアは仮に戦争を続けたくても続くすべがないので、撤退せざるを得なくなるんですね。それを目指すべきだと思います。
 今は侵略戦争が成功するというあしき前例をつくってはいけないと思うので、今はやはり自由民主主義諸国が人権と平等、法の支配といった価値観に基づいて動く時期なのではないかと私は思います。
 以上です。

(つづく)