<世界選手権での活躍で五輪連続出場をつないだ> 目黒萌絵
ジュニア時代は2人の姉や寺田桜子と「空知こざくら」で活動し、途中から姉に替わりスキップを務めた。その点、藤澤五月に似ている。初期はシムソンズと、やがて本橋麻里らのマリリンズと日本ジュニア選手権などで戦った。
のち、寺田とともにチーム青森に合流。当初はスキップだったが負傷・離脱がありリードで復帰。2006年トリノ五輪に出場。小野寺歩や林弓枝が退いた後はスキップに戻り、2008年世界選手権では4位に食い込んだ。これは1997年の選抜チームと並ぶ過去最高順位(なお、1997年は10チーム制で、2008年は12チーム制)。
2010年バンクーバー五輪では、英国戦のビッグエンドなど見応えある場面もあり、3勝2敗のスタート。が、そこから4連敗して8位に終わった。途中でバイススキップが変更されるなど、チーム内に課題があったのは事実だろう。それでも、2007年、2008年の世界選手権でのポイント獲得で、日本女子の五輪連続出場をつないだのは彼女の力が大きかったし(男子は1998年長野五輪の後は4大会出場できなかった)、そもそも五輪で4勝以上を稼いだ日本のスキップは、小笠原と藤澤の2名しかいない。五輪で勝つのは容易なことではないのだ。
その後、現役を引退し結婚したが、金村萌絵として、カーリング指導者やテレビ解説者(北京五輪など)で活動している。
<メダルに手が届くチームを創り上げた> 本橋麻里
ジュニアチーム(マリリンズ)や河西建設を経てチーム青森加入。2006年トリノ五輪、2010年バンクーバー五輪に出場。その直後の世界選手権では、本橋がフォース、目黒萌絵がサードスキップという試合もあり、チームワーク上の問題があった中でチームとしてもがいていたことが示唆される。
本橋はチーム青森を離れ、故郷の北見市常呂町でロコ・ソラーレを設立。不安視する声もあったが、スポンサー確保、メンバーの離脱・新加入、本橋自身の結婚・出産などをくぐり抜けてきた。
藤澤五月をチームに迎えてからはスキップを任せ、いつしかレギュラーからも退いた。バンクーバーでの経験を経て彼女が求めたものは、自分がスキップを務める環境、ではなく、チーム内の役割も含めて自分たちで何が最善か協議・判断できる環境だったのではないだろうか。
ロコ・ソラーレは2018年平昌五輪、2022年北京五輪と連続出場、連続メダル獲得を果たした。本橋個人としては、リザーブとして参加した平昌五輪で銅メダル獲得。今は、ロコ・ソラーレの「妹チーム」ロコ・ステラのスキップとして、次代の選手たちを育成している。
<代え難いバイススキップ> 吉田知那美
小野寺佳歩、鈴木夕湖らと常呂中学校ROBINSを結成(のちに実妹・夕梨花も加入)。中2で出場した日本選手権では、予選リーグでトリノ五輪直後のチーム青森を破り、3位に入った。その翌年も3位入賞。高校時代は、藤澤五月や吉村紗也香、それぞれのチームが強く、あまり目立たなかった。
高卒後、カナダ留学などを経て、小笠原歩に誘われ、北海道銀行フォルティウスへ。2014年ソチ五輪ではリザーブだったが、小野寺佳歩のインフルエンザで出番が回り、セカンド、リードとして8試合出場。が、日程終了後、ソチにいる間に戦力外通告を受け、失意のうちに帰国。
本橋麻里の誘いでロコ・ソラーレに移り、サードとして定着。藤澤五月の加入後は、2016年世界選手権準優勝(日本カーリング史上初)、2018年平昌五輪銅メダル(同)、2022年北京五輪銀メダル(同)と活躍が続く。
サードというポジションはミスをすると目立つが、実はショット成功率は他チームのサードに比べて悪いわけではない。そして、藤澤五月という「スーパーフォース」を活かすためのバイススキップとしては、プランAからプランBへの変更を瞬時に判断するなど、他に代え難い存在だろう。
<世界トップクラスのリード> 吉田夕梨花
中1のときに、実姉・知那美、小野寺佳歩、鈴木夕湖らの常呂中学校ROBINSに参加、日本選手権3位入賞。その後は、同じメンバーのJJ常呂を経て、本橋麻里が立ち上げたロコ・ソラーレに加入。知那美、藤澤五月の加入で強化されたチームでリードを務め、2016年世界選手権準優勝、2018年平昌五輪銅メダル、2022年北京五輪銀メダル。
北京五輪では、参加チームのリード中、トップのショット成功率を見せた。また、ルール上、相手のガードストーンを排除できない期間に、自分のストーンを当てて位置をずらすというウィックの名手として知られ、「ゆりかタイム」と呼ばれている。2022年世界選手権では制限ルールが試行され、ウィックの取扱いが変更になるかもしれないが、彼女ならどんなルールにでも適応できるだろう。
セカンドの鈴木夕湖とともに、小柄だが強力なスイープ力を発揮し、海外から畏敬の念を込めて「クレイジースイーパーズ」と称されている。
<北京五輪最終予選出場決定戦のMVP> 鈴木夕湖
吉田知那美、小野寺佳歩らと常呂中学校ROBINSを結成(のちに吉田夕梨花も加入)。中2、中3と日本選手権で3位入賞。この時期は主にリードを務めた。
高専から4年制大学工学部に編入という理系コースと並行して、本橋麻里の誘いでロコ・ソラーレに参加。2016年世界選手権準優勝、2018年平昌五輪銅メダル、2022年北京五輪銀メダル。
吉田夕梨花よりさらに低い身長だが、2人の強力なスイープ力は「クレイジースイーパーズ」の異名に恥じない。
鈴木によると、自身が務めているセカンドは、「男女共通で、世界的にやらかす人が多い気がする」という。鈴木自身が「やらかす人」かどうかは別にして、平昌五輪予選リーグ(ラウンドロビン)のショット成功率は74%でセカンド中9位タイだったが、北京五輪では80.9%(5位)に上昇している。北京五輪最終予選出場決定戦での北海道銀行との激闘でMVPに選ばれたように、「やるべきときにやる人」というべきかもしれない。
<北京五輪の最高ショット率フォース> 藤澤五月
ジュニア時代から頭角を現し、姉に代わってステイゴールドIIのスキップとして活躍。日本ジュニア選手権ではWINSの吉村紗也香らと、世界ジュニア選手権ではスコットランドのミュアヘッド、スウェーデンのハッセルボリらと激闘を繰り広げた。
高卒時から中部電力に加入し、チーム最年少ながらスキップとして日本選手権4連覇。だが、世界最終予選代表決定戦では北海道銀行フォルティウスに敗れ、ソチ五輪出場はならなかった。翌年度の日本選手権は予選6位に終わり、チームを離れて北見市に帰郷。本橋麻里の誘いでロコ・ソラーレに加入。2016年世界選手権準優勝、2018年平昌五輪銅メダル、2022年北京五輪銀メダル。なお、北京五輪の予選リーグでは、フォース中で最高のショット成功率80.1%だった。
誤解を恐れずにいえば、中部電力時代はマジメすぎたのではないだろうか。バンクーバー五輪の頃の本橋麻里や目黒萌絵もそうだったかもしれない。吉田知那美に象徴されるロコ・ソラーレの環境が、そんな藤澤には合った。吉田も藤澤も試練を経て強くなった。元のチームが悪かったということではなく、出会うべきときに出会うべき人たちに巡り合ったということなのだろう。
(敬称略)