ノーベル物理学賞に真鍋淑郎氏 二酸化炭素の温暖化影響を予測
NHK 2021年10月5日 20時21分
ことしのノーベル物理学賞の受賞者に、大気と海洋を結合した物質の循環モデルを提唱し、二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化に影響するという予測モデルを世界に先駆けて発表した、プリンストン大学の上級研究員でアメリカ国籍を取得している真鍋淑郎さん(90)が、ドイツとイタリアの研究者とともに選ばれました。
日本人がノーベル賞を受賞するのはアメリカ国籍を取得した人を含めて28人目で、物理学賞では12人目になります。
真鍋さんは現在の愛媛県四国中央市の出身で、東京大学で博士課程を修了後、アメリカの海洋大気局で研究を行いました。
そして、大気と海洋を結合した物質の循環モデルを提唱し、二酸化炭素が気候に与える影響を世界に先駆けて明らかにするなど地球温暖化研究の根幹となる成果などをあげてきました。
真鍋さんは現在、アメリカのプリンストン大学で上級研究員を務めていて、アメリカ国籍を取得しています。
(中略)
真鍋さんは、同じ分野で研究をしてきたドイツのクラウス・ハッセルマンさんのほか、統計物理学を専門にしているイタリアのジョルジョ・パリ―ジさんと合わせて3人で受賞することが決まりました。
(中略)
真鍋さんの受賞理由について、ノーベル賞の選考委員会は「現代の気候の研究の基礎となった」としています。
地球の気候は人類にとって極めて重要な複雑系のシステムで、真鍋さんは大気中の二酸化炭素の濃度が上がると地表の温度上昇につながることを明らかにしたとしています。
そして、1960年代には地球の気候に関するモデルの開発をリードし、地表面が太陽から受け取るエネルギーから宇宙に逃げていくエネルギーを差し引いた「放射収支」と、空気の縦の動きが、お互いにどう影響し合うか世界で初めて解明したとしていて、真鍋さんの研究は現在の気候モデル開発の基礎となったと評価しています。
また、選考委員会は会見の中で、真鍋さんを含めた3人の受賞者を「複雑な物理体系の理解を深めた人物」として紹介しました。
そして、物理学には基本的なルールを使って複雑なプロセスや現象を説明する役割があるとし、真鍋さんの功績として「力学を通じて地球の気候を研究し、初めて信頼性のある予測を出した。二酸化炭素が2倍になれば表面温度が2度上がると予測した」と説明しました。
ともに受賞の研究者 「将来世代のために迅速に行動を」
真鍋さんとともに受賞者に選ばれたジョルジョ・パリ―ジさんは、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学の理論物理学者です。
パリージさんと同じ分野の研究をしている東京大学大学院総合文化研究科の福島孝治教授によりますと、パリージさんは物質の複雑なシステムについて統計力学を使って研究しました。
その結果、複雑なシステムの中では規則がないように見えるものの、一定の秩序が成り立っていることを理論的に示しました。
この概念は、幅広い物理学の研究に応用されているほか、現在ではAI=人工知能の開発などに使われる「機械学習」の分野にまで広がっているということです。
ノーベル賞の選考委員会は、パリージさんの研究について「無秩序で複雑な物質における隠れた規則性を明らかにした。物理学だけでなく、数学、生物学、神経科学、そして機械学習などさまざまな分野において、一見、無秩序で複雑な物質や現象の理解を可能にした」と評価しています。
パリ―ジさんはオンラインで受賞決定の記者会見に参加し、今月末から開かれる気候変動対策の国連の会議「COP26」の参加者へのメッセージを求められたのに対して、「非常に強力な行動をしなければならない。私たちの行動によってはさらに気温が上がってしまうかもしれない。将来世代のために迅速に行動しなければならない」と話していました。
また、ノーベル物理学賞の選考委員は、今回の賞が世界の首脳に対して気候変動の危機がいかに重要であるかメッセージを込めているのか、との質問に対して「世界の首脳でまだこのメッセージをしっかり受け止めていない人ならば、私たちがこう言ったからといって理解するものではないと思う。私たちが言えることは、温暖化は確固たる科学に基づいて解明しているということだ」と述べました。
気象や気候分野の受賞は初めて
これまでノーベル物理学賞は、▽天文学と宇宙物理学や▽原子や分子、それに▽物質を構成する素粒子物理など、大きく3つの分野から選ばれてきましたが、気象や気候の研究分野を対象とするのは初めてです。
物理学の専門家は、気候の変動が社会的な大きな関心事になる中でこれまでにない分野を対象にしたのではないかとしています。
(以下、政府関係者のコメントや、日本人の過去の受賞者についての記述が続きますが、省略)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211005/k10013292011000.html
日本のメディアでは「日本出身の眞鍋氏がノーベル物理学賞」ということを強調するあまり、同時受賞者との業績評価等の関係がわかりにくいか、そもそも同時受賞者についてほとんど記述していないものが目につきました。紹介したNHKは、まだマシな方だろうと思います。でも、足りない分を補足。
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2021年ノーベル物理学賞、真鍋氏ら3氏に
【10月5日 AFP】
気候変動モデルの研究が評価された真鍋氏とハッセルマン氏が賞の半分を分け、もう半分は、物理システムにおける不規則性と揺らぎの相互作用を研究するパリージ氏に贈られる。
https://www.afpbb.com/articles/-/3369441
ノーベル物理学賞に「複雑系研究」眞鍋・ハッスルマン・パリージ各氏
中央日報日本語版 10/6(水) 7:27配信
今年ノーベル物理学賞は複雑系の研究に寄与した3人の科学者が受賞した。スウェーデン王立科学アカデミーのノーベル委員会は5日(現地時間)、今年のノーベル物理学賞受賞者として眞鍋淑郎氏(日系米国人・90)、ハッスルマン氏(ドイツ・90)、ジョルジョ・パリ―ジ氏(イタリア・73)ら3人を選定した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7a2565b38681c2181b92d5c2e0f17f81fce73114
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AFPでは賞金の配分割合が、中央日報では他の2氏の年齢が明記してあります。
また、中央日報では眞鍋氏を「日系米国人」としていますが、当然といえば当然です。また、きちっと旧字体が使用されていますね。
なお、ネット上などでは、日本人研究者が海外で活躍する、「頭脳流出」的なことについて危惧する声が多く、それも理解できますが、眞鍋氏についてなら研究生活の初期から(ほぼ)米国を本拠としています。
そして、この気候変動モデルは、どの国出身のどの国籍の人がなし得たかにかかわらず、地球温暖化などの喫緊の課題についての非常に重要な研究だろうと思います。
で、トランプさん、温暖化はまだ「フェイクニュース」だと思っていますか?