日本の将棋の最大の特徴は、取った敵駒を持ち駒として再利用できるということにあります。
この持ち駒ルールの採用のためには、まず絶対的といってよい条件があります。
・敵味方の駒の形状が同じであること
チェスなど多くのゲームでは敵味方が駒の色で区別されていますし、シャンチーでは駒に記載されている文字も(兵・卒、象・相など)異なります。
日本将棋では、駒の形状は同じで、五角形のとがった方を相手に向けることで区別します。文字の向きも区別に役立つでしょう。
また、絶対的に必要というほどではありませんが、持ち駒ルールのためには望ましいと考えられる条件もあります。
・持ち駒が強すぎないこと
これはちょっとわかりにくいかもしれないので、やや極端な例を。
中将棋に、獅子という駒があります。玉の二手分を一手で動けるという、ある意味、ずるい駒です(笑)
下図は、仮に中将棋で獅子が持ち駒にあった場合に、相手玉の頭に獅子を打ったところです。
相手玉の移動可能範囲は黄色いマス目ですが、こちらの獅子の移動可能範囲は二重枠線内なので、
これだけで詰みになってしまいます。
ちょっと興ざめで、ゲームとしてのおもしろさが減ったような気がします。
獅子ではなく、たとえばチェスのクイーンを打ったとしたら、相手玉は斜め後ろに逃げられるので詰みにはなりませんが、それでも危ない形であるのは間違いありません。
日本の将棋は、飛び道具のような強い駒は飛車と角それぞれ1枚ずつだけにして、桂馬や香車は(他国の類似駒から見れば)性能を落としました。
その代わり、(歩だけでなく)玉と金以外の全ての駒は敵陣に入ってパワーアップすることができるようになりました。
これによって、強すぎる持ち駒が一気に勝負を決めることもなくなり(あるいは少なくなり)、弱い小駒でも(接近戦に強い)金に昇格できる可能性を残し、ゲームとしての深みを増した、と私は思います。
チェスにしても、シャンチーやチャンギにしても、取り捨て型のゲームでは終盤に駒が少なくなりすぎて「戦力不足引き分け」みたいな現象が懸念されますが、日本の将棋ではその心配はありません。持ち駒で戦力を補充できるからです。
その代わり、相入玉による引き分け(持将棋)は起こります。前方に利く駒は多いのに後方に利く駒は少ないこと、敵陣に打った歩などの小駒が成り込んで金になって玉の強力な守備駒になること、などから、やむを得ないことではあります。
チャトランガを「発明」した古代インドの独創性、それを西へ広めたイスラム世界、クイーンのような強力な駒の開発などゲーム全般を改良して世界中に広めたヨーロッパ、将(帥)などの駒に移動範囲の制約を加えることで勝負を複雑にした中国の思考、それぞれ評価されるべきだろうと思います。
テロや圧政ではなく、こういう文化的な競争で、相互の個性の理解をしながら世界中の人々が歩むことができれば、と願うばかりです。