ケアマネに連絡がつかない場合

緊急にサービス調整が必要なのに担当ケアマネに連絡がつかない、ということは(もちろん、ない方がよいのですが)、あり得ない話ではありません。

居宅介護支援の基準省令の解釈通知(平成11年老企第22号「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について」)を見てみます。

常勤の介護支援専門員を置くべきこととしたのは、指定居宅介護支援事業所の営業時間中は、介護支援専門員は常に利用者からの相談等に対応できる体制を整えている必要があるという趣旨であり、介護支援専門員がその業務上の必要性から、又は他の業務を兼ねていることから、当該事業所に不在となる場合であっても、管理者、その他の従業者等を通じ、利用者が適切に介護支援専門員に連絡が取れる体制としておく必要がある。
指定居宅介護支援事業所の管理者は、指定居宅介護支援事業所の営業時間中は、常に利用者からの利用申込等に対応できる体制を整えている必要があるものであり、管理者が介護支援専門員を兼務していて、その業務上の必要性から当該事業所に不在となる場合であっても、その他の従業者等を通じ、利用者が適切に管理者に連絡が取れる体制としておく必要がある。

営業時間中は何らかの形で連絡が取れる体制を整えておく必要があります。
営業時間外については、基準上は連絡体制の義務付けはありません。
(ただし、当然のことながら、特定事業所加算を算定している事業所は、24時間連絡体制を確保する必要があります。)

もちろん、特定事業所加算を算定していない事業所でも、少なからぬケアマネが携帯電話などで連絡が取れるよう努力している現実はあると思います。
利用者や家族(あるいはサービス事業者)の立場では、連絡が取りやすいケアマネにお願いしたいのは当然なので、営業時間内しか連絡がつかない事業所が淘汰される可能性を否定するものではありません。

しかしながら、ここは最低基準上から見た話で続けます。

緊急時にサービスが必要になり、家族やサービス事業者がサービスを調整した場合はどうなるか。

訪問介護の身体介護については、21年報酬改定により緊急時訪問介護加算が新設されました。
サービス提供責任者とケアマネが連携し、ケアマネが事前に必要性を認めることが基本ではありますが、やむを得ない事由により事後に必要と判断した場合にも算定可能とされています。
加算の算定だけでなく、当該サービス費本体の算定も認められます(それも償還払いでなく現物給付化が可能)。

では、通所サービスや短期入所サービスはどうでしょうか。
たとえば、居宅介護支援事業所の休日に、家族介護者の傷病や親族の死亡等により、日帰り、または宿泊で、要介護者を預けなければならなくなった場合などです。

実は、介護保険法では、償還払いが基本の形です。

第41条第1項
 市町村は、・・・「居宅要介護被保険者」・・・が、・・・「指定居宅サービス事業者」・・・から・・・「指定居宅サービス」・・・を受けたときは、当該居宅要介護被保険者に対し、当該指定居宅サービスに要した費用・・・について、居宅介護サービス費を支給する。(略)

煩雑な文言を整理すると、こういう形になります。

もっとも、その第2項では、

2 居宅介護サービス費は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村が必要と認める場合に限り、支給するものとする。

とあり、介護保険法施行規則第62条で給付管理の対象となる医療系サービスについて対象となる被保険者が規定されています。
法の「市町村が必要と認める場合に限り」というのは、施行規則で定めるサービスについてだけの規定、と読めなくもないのですが、
たとえば、Jさんのブログ「介護保険法を勉強しなおす」では、

「これ以外の居宅サービスについても、居宅介護サービス費の支給対象にするためには、利用することの必要性をきちんと説明できるようにしておくことが前提になります。」


制度の理念などから考えて、私もこの考え方に賛成です。

なお、居宅サービス計画に基づいたサービスは、適切なケアマネジメントに基づいているという(少なくとも理念的には)担保があるため、市町村で「必要性の判定」は個別に行っていませんが、居宅サービス計画に基づいていない償還払いのサービスについては、介護保険法第23条などの規定に基づき、文書その他の提出を求めて必要性を判定することはあり得ると思います。

次に、現物給付についての条文です。

介護保険法第41条第6項
 居宅要介護被保険者が指定居宅サービス事業者から指定居宅サービスを受けたとき(当該居宅要介護被保険者が第46条第4項の規定により指定居宅介護支援を受けることにつきあらかじめ市町村に届け出ている場合であって、当該指定居宅サービスが当該指定居宅介護支援の対象となっている場合その他の厚生労働省令で定める場合に限る。)は、市町村は、当該居宅要介護被保険者が当該指定居宅サービス事業者に支払うべき当該指定居宅サービスに要した費用について、居宅介護サービス費として当該居宅要介護被保険者に対し支給すべき額の限度において、当該居宅要介護被保険者に代わり、当該指定居宅サービス事業者に支払うことができる。
介護保険法施行規則第64条
 法第41条第6項の厚生労働省令で定める場合は、次のとおりとする。
 一 居宅要介護被保険者が指定居宅サービス(略)を受ける場合であって、次のいずれかに該当するとき。
  イ 当該居宅要介護被保険者が法第46条第4項の規定により指定居宅介護支援を受けることにつきあらかじめ市町村に届け出ている場合であって、当該指定居宅サービスが当該指定居宅介護支援に係る居宅サービス計画の対象となっているとき。
(以下略)

居宅介護支援事業者の届出をしていることは必要条件ですが、それだけでは現物給付は受けられません。
「当該指定居宅サービスが当該指定居宅介護支援に係る居宅サービス計画の対象となっているとき」
という条件も満たす必要があります。

この場合、事前には居宅サービス計画に織り込まれていないサービスですから、本来は現物給付の対象とはなりません。

問題は、事後に織り込まれた場合。

この判断は難しいと思いますが、
・ケアマネに連絡を取ることが困難であった場合
・事後に、サービス担当者会議など適切なケアマネジメントにより緊急にサービスを利用する必要性が認められた場合
の両方を満たすのなら、現物給付の対象として差し支えないのではないか、と私は考えます。

あ、もうひとつ追加しておきます。
・今後、同様の緊急事態が起きたときの対応について、サービス担当者会議などで協議されている場合
これは、厳密には法的要件ではないのかもしれませんが、適切なケアマネジメントという観点からは、当然必要な観点と思われます。

あと、償還払い、現物給付を問わず、個別援助計画(通所介護計画など)の作成は必要でしょうが、その作成及び同意が事前か事後かなど、さまざまな論点はあると思います。

さらに、本記事の内容に反対の考え方(現物給付化は不可能、償還払いも困難、というような)も、できるとは思われます。

私は「保険事故」に対する給付という観点からは、緊急時に対象とならないことに違和感を感じるているのですが、多少、偏った考え方になっているかもしれません。
そのあたりのバランスのためには、たとえば、たぬさんのこちらの記事やコメント欄でのやりとりを参考にしていただいた方がよいようにも思います。
http://blogs.yahoo.co.jp/tanu_wb/58075593.html
http://blogs.yahoo.co.jp/tanu_wb/58095402.html

そして、もちろん、

さして緊急性もないのに自社の利益を確保するためだけにケアマネを無視してサービス提供しようとする一部の事業者を肯定しているわけではありません。