「予防訪問介護は最後の手段」か?

平成18年4月改定関係Q&A(Vol.2)より

Q:介護予防訪問介護は、家族がいる場合や地域の支え合いサービスがあれば、まったく支給できないのか。

A:訪問介護については、現行制度においても、掃除、洗濯、調理などの日常生活の援助については、「利用者が単身、家族が障害・疾病などのため、本人や家族が家事を行うことが困難な場合に行われるもの」と位置付けられているところである。介護予防訪問介護については、更に、自立支援の観点から、本人ができる行為は本人が行い、利用者の家族、地域住民による支え合いや他の福祉サービスの活用などを重視しているところである。したがって、家族がいる場合や地域の支え合いサービスがあるからといって、一律に支給できないわけではないが、こうした観点を踏まえ、個別具体的な状況をみながら、適切なケアマネジメントを経て、慎重に判断されることになる。

自立支援の観点から、本人ができる行為は本人が行い、
これは、少なくとも日本語の意味としては理解できます。

利用者の家族、地域住民による支え合いや他の福祉サービスの活用などを重視している
これは、「自立支援の観点」には直接関係ないと思います。
介護保険での支援(この場合はヘルパー)が家族や地域住民や他の福祉サービスに替わるだけですから。

でも、「重視」ですから、少なくとも日本語の意味としては、「家族、地域住民による支え合いや他の福祉サービスの活用など」が介護保険より絶対的に優先であるとまでは断定していないように思われます。

そもそも、なぜ、このようなQ&Aが出されたのでしょうか?
というより、「家族、地域住民による支え合いや他の福祉サービスの活用など」は、予防訪問介護より優先しなければならないという根拠は何でしょうか?

まず、介護保険法本体にはありません。
(総則には「国民の共同連帯の理念に基づき」という文言はありますが、これをもって家族や地域住民が優先というのは無理があるでしょう。)

では、運営基準はどうでしょうか。

「指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準」(平成18年厚生労働省令第35号)

第40条 指定介護予防訪問介護の提供に当たっては、介護予防の効果を最大限高める観点から、次に掲げる事項に留意しながら行わなければならない。
 一 指定介護予防訪問介護事業者は、サービスの提供に当たり、介護予防支援におけるアセスメント(指定介護予防支援等基準第三十条第七号に規定するアセスメントをいう。以下同じ。)において把握された課題、指定介護予防訪問介護の提供による当該課題に係る改善状況等を踏まえつつ、効率的かつ柔軟なサービス提供に努めること。
 二 指定介護予防訪問介護事業者は、自立支援の観点から、利用者が、可能な限り、自ら家事等を行うことができるよう配慮するとともに、利用者の家族、地域の住民による自主的な取組等による支援、他の福祉サービスの利用の可能性についても考慮しなければならないこと。

利用者の家族、地域の住民による自主的な取組等による支援、他の福祉サービスの利用の可能性についても考慮しなければならないこと
とはありますが、

「予防訪問介護より優先しなければならない」とは書いてありません。


基準の解釈通知である「指定介護予防支援等の事業の人員及び運営並びに指定介護予防支援等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準について」(平成18年3月31日付け老振発第0331003号・老老発第0331016号)にも、優先関係についての言及はなかったと思います。

ちなみに、報酬告示(平成18年厚生労働省告示第127号「指定介護予防サービスに要する費用の額の算定に関する基準」)にも、
その留意事項通知(平成18年老計発第0317001号・老振発第0317001号・老老発第0317001号「指定介護予防サービスに要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」)にも、そのような優先関係についての記述はありません。

つまり、法令上は、

「同居家族による支えや、地域の支え合い・支援サービスや他の福祉施策などのサービスが利用できない状況でないと予防訪問介護は利用できない」

という規定はない

ということになります。

では、ときどき世間で言われるこのような考え方は、どこから来たのでしょうか?

ネット上で検索してみると、審議会等の資料(おそらく厚労省事務方がまとめたもの)の他、
地域包括支援センター業務マニュアル」などがヒットしました。
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb05Kaig.nsf/0/79ea61ddf2ef4633492570dc0029d9a8/

第5章:介護予防ケアマネジメント

1.5.2 サービス別の内容
「介護予防訪問介護」については、利用者の状態等を踏まえ、適切なケアマネジメントに基づいて提供されることとなります。具体的には、①利用者が自力で困難な行為(掃除、買い物、調理等)があり、②それについて同居家族による支えや地域の支え合い・支援サービス、他の福祉施策などの代替サービスが利用できないケースについて、介護予防ケアマネジメントによる個別の判断を経た上で、サービスが提供されるものです。

2.4 介護予防ケアプランの作成

《予防給付のサービス選択に当たっての留意事項》
「介護予防訪問介護」については、利用者に自力で困難な行為(掃除、買い物、調理等)があり、それについて同居家族による支えや、地域の支え合い・支援サービスや他の福祉施策などのサービスが利用できない状況の場合、介護予防ケアマネジメントによる個別の判断を経た上で、サービスが提供されるものです。

家事(生活援助)については、要介護者の訪問介護でも同居家族の優先規定はあります。
しかし、それは
「当該家族等の障害、疾病等の理由により、当該利用者又は当該家族等が家事を行うことが困難であるものに対して」(平成12年厚生省告示第19号)
という表現であり、<「利用できない」場合でないと算定不可>とまでは言っていません。

予防訪問介護における、この表現のきつさが、たとえば「家族が倒れるまでは予防訪問介護は使えない」というような常軌を逸する一部自治体の見解を誘発した可能性はあります。

ちなみに、この「地域包括支援センター業務マニュアル」の記述では、「掃除、買い物、調理等」について述べていますが、身体介護に相当する支援については、少なくとも直接的には触れていません。
要支援者に対しては、たしかに重度者に比べれば生活援助の比率が高くなってもおかしくありませんが、少なくともゼロではないはずです。

そもそも、「要支援2」というのは「要介護1」と同じレベルの介護の手間があるはずです。

「自分でできる家事は自分で」というのは、一応の理屈が立ちます。
しかし、身体介護(通院介助を含む)を家族が優先して担わなければならない法令上の規定はありません。
家事にしても、要介護者の訪問介護に比べて、格別に家族の負担を優先しなければならない理由もないでしょう。

そして、地域の支え合いや、他の福祉サービスを優先しなければならないという規定も、少なくとも法令上はありません。

結論として、

地域包括支援センター業務マニュアル」等のこの手の記述は法令上の根拠に乏しく、違法性が高い

とまでは断定できないにしても、

「介護予防訪問介護は最後の手段」という表現は不適当

とはいえます。