駐日中国大使の発言と中国軍演習

中国の呉江浩駐日大使の「日本の民衆が火の中に」発言の詳報
産経新聞 5/30(木) 21:46配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/a99b4c08a2de6642099b79e77c18d3bbf1e4970f?page=4

上の記事から、駐日・中国大使の「日本の民衆が火の中に」発言(5/20)の該当部分のみ抜粋。

 

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4つ目は、台湾海峡の平和と安定を脅かすのは一体誰であるかですが、日本の一部の方は台湾有事は日本有事とあおり立てて、中国政府の対台湾政策を歪曲し、中国による武力行使との脅威論をまき散らし、台湾のために戦う(と)まで言い出す政治屋もいます。

中国政府の台湾問題における立場は一貫しており変わっていません。すなわち、われわれは最大の努力を尽くして平和統一を目指す一方、武力行使の放棄も絶対確約しません。

この武力行使とは外部勢力の干渉と、台湾独立分裂勢力に対するものであり、決して台湾の同胞たちに対するものではありません。台湾独立を抑制する切り札でもあります。今、台湾海峡情勢に緊張がもたらされてる根源は、台湾当局の外部勢力を巻き込んでの台湾独立を企てる試みや、外部勢力が台湾問題でもって中国を制しようとすることにあります。

長きにわたって台湾に武器を売り込んでいるのは誰なのか。台湾の間近の島々で攻撃型武器を配備するのは誰であるか。中国の周辺で軍事的なグループを作るのは誰であるか、その答えははっきりとしています。私は着任して以来、あらゆる場で以下のことを強調しております。

日本という国が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになるでしょう。耳障りな言葉ではありますが、あらかじめ言っておく必要があると思いました。
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「中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば」という、ある種の修辞的な例えが何を指すのか、
1)中国の台湾侵攻があったときに武力介入することなのか、
2)在日米軍が武力介入した場合の後背地としての間接支援も指すのか、
3)政治的発言や経済制裁(中国に対する)のような非武力的手段まで含むのか、
これだけでは明確には判断できません。

3で日本に対して武力攻撃するのは、国連憲章など国際法に違反といってよいでしょう。
2は程度問題、というか詳細な状況にもよりますが、やはり国際法違反となる可能性はあります。
1は(日本側にも言い分はあるでしょうが)自衛権の行使、と中国側は主張するでしょう。
もっとも、現行では(ときの内閣の憲法解釈にもよりますが)1の可能性はきわめて低いと見ます。ある場合を除いて。

ある場合というのは、台湾侵攻に際して、中国軍の一部が尖閣諸島を占領しようとしたような場合です。
この場合、尖閣諸島の防衛、あるいは奪還のために、自衛隊の出動が可能となります。

ちなみに、中国軍が台湾を囲んで軍事演習を行った2022年と2024年の比較です。
2022年は同年8月9日の中日新聞、2024年は同年5月24日(この間ですね)の西日本新聞に掲載された図によります。
ただし、2022年の図には、尖閣諸島の大まかな位置を書き込んでみました。

 


2022年の際は、尖閣諸島の方向にも対処するかのように演習実施エリアが設定されていますが、2024年ではその方向は空いているように見えます。
まあ、この方向や、与那国島など先島諸島方面から米軍が進んだとしても、中国側からミサイルの飽和攻撃などは可能かもしれません。

ただ、今回は日本の排他的経済水域EEZ)にミサイルが落下したりというような「失態」はなかったし、日本側を(軍事的には)過度に刺激しないようにという意図はあったかもしれません。
政治的には、大使の「日本の民衆が火の中に」発言がありましたが、深読みすれば、
「今回は台湾の新総統の就任発言に対して軍事演習をしたという形は取らなければならないから、そのメンツはつぶさないでね」
という懇願のようなものが含まれていたのかもしれません。

もちろん、日本側が大使発言について、より厳しく対応したり、「ペルソナ・ノン・グラータ」を匂わせたりするという選択もあるかとは思います。

 

ですが、今回の演習が、純軍事的意味よりも政治的意味の方が強いことについては、日本政府や自衛隊関係者の中の専門的な部署の人なら、気がついていることでしょう。
1の経済制裁についても、本気でやるなら日中とも経済的ダメージが大きいのは、両政府とも認識はしているはずですし。
ウクライナ侵攻に対する対露制裁とは次元が異なるぐらいの。

 

とはいえ、中国はトップに立つ個人、あるいはその周辺の少数の意思で何かを起こすことができる体制ですし、そもそもトップの制御すら受け付けずに動く軍関係者がいないとも限らないので、油断はできませんが。