「孫の世帯分離」訴訟の詳報

生活保護打ち切り取り消し裁判】原告の孫に入金を迫り、ドアを叩く福祉事務所の呆れた所業
週刊女性PRIME 10/12(水) 11:01配信

 専門学校に通う孫の収入増加を理由に、熊本県は同居する高齢夫婦の生活保護受給を打ち切った。生活に困窮した世帯主の男性は、打ち切り処分の取り消しを求める訴訟を決意し、ついにその判決が下った。生活困窮者の支援活動を行う『つくろい東京ファンド』の小林美穂子氏によるレポート。
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 原告の70代男性は、妻と孫との三人暮らしだった。

 2014年7月に生活保護を申請し、8月から受給している。原告の生活保護申請からさかのぼること4か月前、孫は准看護科(二年制)に入学している。そこで、福祉事務所は孫が就学して資格取得をし、最終的に自立するという長期的目標を立て、就学が続けられるよう「世帯分離」をして孫を生活保護から引き離した。
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 世帯分離になると、生活保護利用世帯と同居しながらも大学・専修学校などへの進学ができ、就労しても収入申告の対象にはならない。

 孫は祖父母と暮らしながら、准看護科で学びながら病院に勤務し、学費や生活費などを工面している。

 2016年に准看護科を卒業した孫は、看護科(3年)に入学。引き続き病院で勤務しながら専門的な学びを深めていく。朝6時半に家を出て夜9時半に帰宅する毎日。土日は学校が休校なため、病院勤務をし、休みなく勉強と仕事に明け暮れているのを、福祉事務所のケースワーカーは祖父母から聴取している。

 その勤勉さや人柄、真面目な働きぶりは勤務先でも評価され、卒業後の勤務も約束されている。

給与増によって世帯分離が解除され、保護廃止処分に
 2017年1月にケース会議を経たのちの2月14日、福祉事務所は孫の収入が増え、健康保険や年金にも加入できたことを理由に、就学途中であるにも関わらず、「世帯の収入が最低生活費を上回るため」として、世帯分離を解除し、原告夫婦の生活保護を廃止した。

 つまり、孫の収入で祖父母を養えということなのだが、しかし考えてもらいたい。

 孫の収入は確かに14万~19万と増えていたのだが、看護学校の実習が始まれば収入が激減することが分かっていた。そのため、事前に働けなくなる近い未来のために貯金をしておこうと思うのは至極当たり前のことと思われる。むしろ、計画性が素晴らしい。

 それなのに、福祉事務所は世帯分離を解除し、孫が祖父母を養えば生活ができるはずと、祖父母の生活保護を廃止してしまった。その処分が意味することは……。

1.孫は看護学校での就学を断念しなくてはならなくなる

 祖父母を養うために収入を使えば、看護学校での就学は続けられない。准看護師の資格のみでは将来の選択肢は限られる。もともと福祉事務所が「5年間の就学ののち自立」という長期プランを立てた上で世帯分離をしているのに、目的に達していない状態で世帯分離解除&生活保護打ち切りは矛盾している。

2.孫が就学を続ければ、祖父母はただちに困窮するのが明白

 仮に孫が祖父母を養うのを拒否し、自分の将来を優先した場合、自分を養育してくれた祖父母が困窮するのが目に見えている。高齢であるのに医療も受けられないだろう。これから長く続く自分の人生か、養育してくれた祖父母か、そんな究極の選択を迫られた孫の気持ち、また、自分たちの存在が孫の将来を阻害するという苦悩に引き裂かれたであろう原告夫婦の気持ちを、福祉事務所は考えたのだろうか。

自宅を訪問、孫の部屋のドアを叩き「出てきなさい!」
 保護を廃止する直前に行われた1月26日のケース診断会議では、孫の収入状況にのみ焦点が絞られ、ケースワーカーの誰からも、上記に記したような懸念や疑問は発せられていない。私はそのことにあ然とする。

 世帯分離を解除し、原告夫婦の生活保護を廃止することがどういうことか、こんな簡単なことが福祉事務所の職員たちの頭には上らなかったのかと驚くが、弁護団の一人に取材した私は言葉を失うほどに驚いた。

 原告夫婦の生活保護が廃止になってから8か月後の2017年10月、どうしても生活が立ち行かなくなった原告夫婦は、やむにやまれず再び生活保護の申請をした。

 申請後、福祉事務所の職員が原告宅を訪問している。その際、孫が怖がって部屋に閉じこもっていると、30分にも渡ってそのドアを叩き「出てきなさい!」などと怒鳴り、家にお金を入れることを迫ったというのだ。

 消費者金融の取り立てのようなことを、こともあろうに福祉事務所の職員がしていることに絶句した。

 究極の選択を迫られた上、控え目に言ってもトラウマ級の福祉事務所による暴力的な行為の果てに、孫は精神的に不安定になり、一年間の休学を余儀なくされている。

 貧しい環境下でどんなにあがいても、どんなに歯を食いしばって前向きに頑張っても、この国は許してくれないのだ、そう絶望したに違いない。

 実際は、孫が自分の生活を犠牲にしてまで祖父母を養わなければいけないという法律的な義務はない。このことは地裁の判決文でも裁判官が明確に指摘している。

 家族が受けた傷、失ったものはあまりにも大きすぎた。だから老いた原告は、大きな権力を相手に、ドン・キホーテのように闘いを挑んだのだと、私は判決を読んでいて感じた。

粉々になったものを修復するために
 弁護団の一人である尾藤廣喜弁護士は取材に対し、力を込めて繰り返した。

「世帯分離の目的を達していないのに、勝手に解除してはいけないんですよ。行政は一貫性がなくてはいけないんです。自由裁量で(人の運命を)決めてはならない」
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 幸い、孫は一年の休学ののちに復学し、今も同じ病院で職員たちに支えられながら働き、そして、ついに念願の正看護師の資格を取得した。それまでの努力や希望をどれだけ粉々にされてボロボロになっても、再び立ち上がった若者に心からの敬意を表し、祝福したい。

 孫が看護師として自立し、自分の人生を歩いて行くこと、それは2年もの月日を大きな力を相手に闘った祖父母の切実な願いでもあるだろう。

 さて、一方で家族をボロボロにした張本人、熊本県にお願いがある。

 控訴はしないでいただきたい。これ以上、原告やお孫さんを苦しめるのを控えてほしい。
(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/f726913a5013ae48a79df8de14857a9043c69b7d

 


「世帯分離した孫の収入」の続報、というより詳細情報のようなものです。
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2022/10/04/211010

 

先の記事のときにはわからなかったことが、いろいろわかってきました。

 

>もともと福祉事務所が「5年間の就学ののち自立」という長期プランを立てた上で世帯分離をしているのに、目的に達していない状態で世帯分離解除&生活保護打ち切りは矛盾している。

 

特にここですね。

前記事でも触れたと思いますが、世帯分離をいつまで認める前提で決定したか。
保護記録を読んでいたら、このような中途での保護廃止はあり得なかったと思うのですが、担当ケースワーカーだけではなく、SVなど指導すべき立場の職員も記録を読んでいなかったのでしょうか?