ネアンデルタール人との交雑

ノーベル医学生理学賞にスバンテ・ペーボ氏 古代人のDNA配列研究
朝日新聞デジタル 10/3(月) 18:56配信

 スウェーデンのカロリンスカ医科大は3日、今年のノーベル医学生理学賞を、独マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ氏(67)に贈ると発表した。業績は「絶滅した古代人類のゲノムと人類の進化に関する発見」。ネアンデルタール人のDNA配列を解読し「我々はどこから来たのか」という問いに対する一つの答えを示した。

 ネアンデルタール人は発表によると、約40万年前から約3万年前までヨーロッパや西アジアに住んでいたとされる。

 ペーボ氏は、1856年にドイツで見つかったネアンデルタール人の上腕の骨の一部を使って、ネアンデルタール人ミトコンドリアDNAを解析。1997年、ミトコンドリアDNAの配列の解読に成功した。

 さらに2010年、同時に大量のDNA配列を読み取ることができる次世代シーケンサーという装置で、ネアンデルタール人の細胞の核DNAの配列を解読した。アフリカ人をのぞく人類の全DNAの1~4%がネアンデルタール人から受け継がれていることを明らかにし、現代の人類の祖先がネアンデルタール人と交雑していたことを突き止めた。

 また、ロシアのデニソワ洞窟から出土した骨片のDNA解析から、これまで知られていなかった古代人を見つけ「デニソワ人」と名付けた。

 ペーボ氏の発見は、アフリカから移動したホモ・サピエンスが、ユーラシア大陸の西側ではネアンデルタール人と、東側ではデニソワ人と交雑していたことを示した。古代人のDNAが、現代の我々のDNAにも一部痕跡として残されていることになる。
https://news.yahoo.co.jp/articles/08a8b3fe7b74d0d3b0a1772d10084fad0c50b067

 


個人的には、ことしのノーベル賞の中でもっともインパクトのあった受賞です。
従来の「医学・生理学賞」のカテゴリーからはみ出す、人類学といってよい分野の研究ということで、ネット上でも(やや)疑問の声もあったようです。
ただ、手法としてはDNA配列の解析ということで、立派に生理学の分野といえるのでしょう。
また、ネアンデルタール人由来のDNAが、ウイルスが侵入したときにプラスに働きたりマイナスに働いたりすることもあるようなので、医学分野とも無関係とはいえないようです。
昨年は気象・環境分野関連で物理学賞の受賞がありましたし、科学が複合・広域化する中、こういう広がりは結構なことだと思います。

<参考>ノーベル物理学賞に眞鍋氏
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2021/10/06/205539

 

図はホモ・サピエンスの移動(居住地の拡大)のイメージをつかむために作ったもので、正確性は全く担保されていません
赤がホモ・サピエンスに関する記述、青がネアンデルタール人やデニソワ人が(たぶん最初に)発見された場所です(そこにだけ住んでいたわけではありません)。

ネアンデルタール人は、昔のSF作品なんかだと、力は強いが野蛮な原始人、というようなイメージで、かれらが進化してホモ・サピエンスになった、というような記述も見たことがあるような気がします。
現在は、ネアンデルタール人も、(昔は発見されていなかったデニソワ人も)ホモ・サピエンスとの共通の祖先から枝分かれした近縁種(または、もっと近い亜種という説も)と考えられています。
そして、ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスと同等以上の脳容量があり、死体の埋葬や生活上の技術なども見られ、同時代のホモ・サピエンスと比べて少なくとも「野蛮」とはいえないような存在だったようです。
(デニソワ人については、まだ詳しいことはわかっていないようですが、似たレベルにあった可能性はあると思います。)

 

交雑がどのような状況で行ったかはわかりません。
私たちが思い浮かべるような「恋」があったのか、ハプニングによるものか、強奪婚に近いようなものなのか。
ただ、全人類で1~4%(ただし、サハラ以南のアフリカでは、皆無かほとんどないかということのようですが)という比率を考えると、交雑は1回きりということはなく、そこそこ起こったことなのでしょう。

 

こういう壮大な研究について考えるとき、たとえばホモ・サピエンスの一部がインド・ヨーロッパ語族の祖先となり、その一部がスラブ語派、さらにその一部の東スラブ系の中で、ロシアがベラルーシを従わせてウクライナを攻撃するという愚行が、どれだけくだらないものかということが、本当によくわかります。