発達障害児の専門学校進学で保護費減

発達障害の長男進学で保護費減額は「不当」…大阪府裁決
YOMIURI ONLINE 2018年12月28日)
 発達障害がある長男(20)の専門学校進学を理由に、大阪府守口市生活保護費を減額したのは不当として、母親(54)が申し立てた行政不服審査で、府が市の決定を取り消したことがわかった。国は専門学校や大学の進学者分の保護費を一律不支給としており、府の判断は異例。府は個別の事情を検討するよう求めており、専門家は「一律カットに理由はなく、取り消しは妥当だ」と評価する。
 12月11日付の府の裁決などによると、母親は16年前に夫と離婚してから長男と2人暮らし。夫から養育費の支払いがなく、パートの仕事をしながら生活保護を受給してきた。

 長男は小学生の時に発達障害と診断された。絵を描くのが好きで、イラストを学ぶ高等専修学校に進学し、昨年4月、アニメ画の制作などを学ぶ専門学校に入学した。この際、母親は市から生活保護費を月約14万円から約8万円に減額され、「障害を持つ長男の自立に向けた進学。まだ働ける状況になく、保護の継続が必要だ」として、昨年6月に府に審査請求していた。

 裁決は、長男の進路について、ケースワーカーが障害の特性などを踏まえて検討した形跡がなく、「世帯全体の自立に関する十分な検討がなく、減額は不当」と指摘。「市はカットが妥当かどうかを再検討するとともに、長男の進路に関する丁寧な指導・助言を行う必要がある」とした。母親は裁決について、「同じような境遇の家庭を救うきっかけになれば」と話した。守口市は「決定の妥当性が認められず残念。裁決を精査し、新たな(支給の)決定を検討する」とコメントしている。
(以下略)


こちらの、みわよしこさん(フリーランス・ライター)の記事にも詳しく書かれています。

生活保護の理不尽と戦った障害を持つ子と母の「月8万円生活」
(DIAMOND online 2019.1.11)
https://diamond.jp/articles/-/190572


さて、一般的には生活保護世帯で進学が認められるのは、高校程度までです(もっと厳しい時代もありました)。

高卒後に大学や専門学校などに進む場合には、進学するお子さんは世帯分離扱いで、そのお子さんに関する費用は支給されなくなります(生活費を含めて)。
本来は働いてその世帯にお金を入れるべきところだが、どうしても進学するのなら奨学金やアルバイトなどで頑張ってくれ、というあたりでしょうか。

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今回の場合、このお子さんには発達障害があり、高校や高等専修学校を卒業してすぐに社会に出たとしても就職して自立することは困難と考えられたようで、さらに専門学校に進学した結果、「通常」どおり、世帯分離されて保護世帯から外されてしまった、ということのようです。
それなら、まず、分離したそのお子さんの単独世帯として「保護要」になるのではないか、というツッコミがあります。
もちろん、「働けるのに働いていない18歳の少年」だったとしたら、就労するようにケースワーカーが指導するでしょうし、就職活動を行うことを条件に保護する、ということもあり得るでしょう。
でも、そういう指導をせずにいきなり「保護否」ということはなかなかないと思います。
そして、就労自体が困難なケースなら、世帯分離して母子それぞれで保護する意味がないので(かえって保護費が高くなります)、従来どおりの母子世帯で保護を継続するはずです。
(なお、専門学校の有効性について、別途検討する必要性を否定するものではありません。)

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なぜ、このお子さんが就労自体が困難ではないかと考えたかというと、みわさんの記事の中に、「障害児に支給される手当」について書かれていたからです。
おそらく特別児童扶養手当と思われますが、この手当は「障害を有する児童について支給される手当」でありながら、「障害児を監護する父母等」に支給されます。
親でも、監護していなければ支給されません。

ここで、市は明らかな間違いを犯しているといえます。お子さんを世帯分離していながら、手当を母の収入として収入認定する(その金額を保護費から減らす)取扱いです。

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保護の実施機関としての市の理屈では、母は子に1円も使えません(使うと憲法で定められた最低限度の生活を下回ってしまう)。
ということは、そういう立場の母が手当を受け取るのは、不正受給ということになります(実際には、お母さんは自分が食べるものを削ってでもお子さんに食べさせるでしょうが、あくまで市の理屈として)。

まあ、こういうことを考えていけば、「高卒後の進学率が何割を超えた、超えてない」というような難しいことを考えなくても、自分たちの市の取扱いに問題があるかないかわかると思うのですが、この市の福祉事務所のSVやその他の職員は気がつかなかったのでしょうか。


<参考>特別児童扶養手当等の支給に関する法律(抄)

(この法律の目的)
第一条 この法律は、精神又は身体に障害を有する児童について特別児童扶養手当を支給し、精神又は身体に重度の障害を有する児童に障害児福祉手当を支給するとともに、精神又は身体に著しく重度の障害を有する者に特別障害者手当を支給することにより、これらの者の福祉の増進を図ることを目的とする。

(支給要件)
第三条 国は、障害児の父若しくは母がその障害児を監護するとき・・・(略)・・・は、その父若しくは母又はその養育者に対し、特別児童扶養手当(以下この章において「手当」という。)を支給する。
2 前項の場合において、当該障害児を父及び母が監護するときは、当該父又は母のうち、主として当該障害児の生計を維持する者(当該父及び母がいずれも当該障害児の生計を維持しないものであるときは、当該父又は母のうち、主として当該障害児を介護する者)に支給するものとする。
3~5 (略)