「都合の悪い数字」隠した?中国政府統計、消えた出生率の謎
西日本新聞 1/5(水) 10:24配信
【北京・坂本信博】中国政府が30年以上にわたってほぼ毎年「中国統計年鑑」で公表してきた地域別出生率(人口千人当たりの出生数)の項目が、昨年9月刊行の2021年版年鑑から消えた。西日本新聞は新疆ウイグル自治区で18年以降、出生率が急減した事実を報じ、少数民族に狙いを絞った人口抑制策が実施された疑惑を指摘してきた。統計項目が消えた背景にはどんな事情があるのか。
「省や自治区別の出生率が今年の統計年鑑に載っていないのはなぜ?」「地域別の出生率が大学の宿題に必要なのに見つからない」。中国のインターネット上で昨秋以降、こんな投稿を見かけるようになった。
出生率は、1年間の出生数を平均人口や特定の時点の総人口で割って算出できる。本紙は、21年版の中国統計年鑑に記載された20年末の地域別人口と、21年版の「中国衛生健康統計年鑑」に記載された20年の出産数を用いて、全31省・自治区・直轄市別の出生率を計算した。
それによると、20年の新疆の出生率は7・01に落ち込んだ。前年までの年鑑に記載された出生率は17年15・88、18年10・69、19年8・14で、18年以降の急激な減少傾向が20年も続き、過去最低を更新していた。
独自算出した20年の出生率を地域別にみると、新疆は全国平均(8・52)や北京(7・36)以下で、少子化が特に深刻な東北の3省や大都市の上海、天津両市、内モンゴル自治区などに続き、8番目に低かった。
年鑑に地域別出生率を記載しなかった理由は明らかにされていない。だが、北京の経済アナリストは「当局にとって都合の悪い統計項目は非公開になることがある」と指摘する。
本紙は中国国家統計局や新疆ウイグル自治区統計局がまとめた公式統計を分析。産児制限「一人っ子政策」の15年末の廃止に伴い、中国全体では16年から不妊手術や子宮内避妊具(IUD)装着が急減したにもかかわらず、新疆の不妊処置件数は14~18年に急増したことを報じた。18年以降、新疆の出生率が急減し、特にウイグル族が人口の8割超を占める市県で低下が著しいことも明らかにした。
中国政府は昨年9月に公表した新疆の人口動態に関する白書でウイグル族の増加を強調。当局がウイグル族に人口抑制策を強制しているとする欧米の指摘を全面的に否定した。一方、18年以降の出生率急減には触れていない。21年版年鑑の不記載は出生率がさらに落ち込む最新データを伏せたかったのかもしれない。
少子高齢化に歯止めがかからない中、出生率は新疆ほどの急減ではないものの、他地域でも減少している。年鑑の不記載は「各地方政府への配慮」との見方もある。いずれにしても、政府側に都合の悪い数字が表に出ないようにする意図が働いた可能性がある。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b95c957c79ab4a9f0f787f298975a961ac97c0d8
前記事の後半では、正確な情報がリーダーに届いていない問題について触れましたが、この西日本新聞の記事は、リーダーの指示(あるいは暗黙の了解)により情報公開を抑制したとみられる例です。
もっとも、国境を越えたレベルで考えると、中国の出生率などの情報が国際機関に正しく届かないことにより、人口や食糧などの政策に支障をきたす可能性はあります。
WHOなどの国際機関が世界のリーダーとしての役割かどうかは議論があるところでしょうが。
それよりも、もっと深刻な問題は、新疆ウイグル自治区などでの人権侵害です。
というところで、次のような報道も。
トルコのエルドアン政権がどのような対応をするのか、注視したいところです。
トルコのウイグル人 中国の習近平国家主席らを人権侵害で告発
NHK 2022年1月5日 10時18分
トルコで暮らすウイグルの人々は、中国の新疆ウイグル自治区で人権が侵害されているとして、中国の習近平国家主席や治安当局者など100人余りを刑事告発しました。
北京オリンピックの開催が来月に迫る中、ウイグルの人権状況への国際的な関心を高めたい思惑もあるとみられます。
トルコで暮らすウイグルの人たち19人は4日、中国の新疆ウイグル自治区で116人に収容所生活を強いているとして、中国の習近平国家主席や治安当局者など112人を刑事告発しました。
代理人の弁護士は、習主席や治安当局者などには、民族などの集団に破壊する意図をもって危害を加える「ジェノサイド」に関与した疑いがあるとしています。
ウイグルとトルコの人々は民族的に近く、トルコではおよそ5万人のウイグルの人々が暮らしています。
最大都市イスタンブールの裁判所の前には、告発を受けておよそ150人のウイグルの人々が集まり、中国政府に抗議の声を上げていました。
妹が収容所にいるというメディネ・ナジミさんは、「私も妹もトルコ国籍を持っている。トルコ政府は、無実の妹を助け出してほしい」と、スピーチで訴えました。
トルコで暮らすウイグルの人々は北京オリンピックの開催に反対していて、今回の告発の背景には、ウイグルの人権状況への国際的な関心を高めたい思惑もあるとみられます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220105/k10013415501000.html
(つづく)