訪問介護の論点5(7.5分科会)

田部井委員(認知症の人と家族の会理事)
 議論を聞いていまして、いささか悲しい思いになってきました。認知症の人が在宅で暮らしていくということをどれくらい理解していただいた上で議論が進められているのかなと考えざるを得ません。
 御承知のとおり、6月27日に発表された資料によりますと、介護が必要になる理由の1番に認知症が登場してしまいました。
 きょういただいた資料によりましても、先ほど来問題になっています生活援助の利用者の中でも独居と老老介護というのは圧倒的多数なわけです。そういう方が認知症を持ちながら在宅で暮らしていったときにどういうことになるか。参考資料の41ページで先ほど来問題になっていますけれども、1人当たりの生活援助の利用回数というのが、「月31回以上の利用者が6,626人に上り」ということで、これはいかにも多過ぎるではないかという議論として展開されているというのはおかしいと思うのです。
 そもそも回数でいったときに、月31回以上というのは、1日1回です。1日1回でひとり暮らしの認知症の人が在宅で暮らしていけますか。暮らしていけないですね。老老介護の人が1日1回の生活援助で暮らしていけるか。暮らしていけないのは明らかだと思うのです
 そういう人たちが6,626人に上りということで、いかにも多いようですが、計算をしていただければわかりますように、4%にすぎないと思うのです。私どもからすれば、認知症を持ちながら生活していく人がそういう形でいるということは、十分推測できる数字だと思います。100回以上といっても、1日3回です。朝昼晩と行けば3回になります。事情としては、実際に生活していく上では必要だというふうにも言えますし、本当は身体介護として入らなければいけないのに、回数を入れないから、家事援助という形で回数多く入ることで身体介助もカバーして在宅をやっと成り立たせているというのが実情だということもぜひご理解いただきたいと思います。

 私どもが昨年末からこの3月に調査をしましてまとめた報告書、「認知症初期の暮らしと必要な支援」という調査報告ですが、ネットで家族の会を検索していただければ出ていますので、ぜひ見ていただきたいと思います。認知症の人が初期、181人の認知症の人本人の調査を行いました。私どもは要介護2が軽度だと思いませんけれども、軽度者だと言われている181人の9割が要介護2までの人の調査です。その中で、家事援助がその人の在宅での生活を支え、家族の就労をも可能にしているという役割を十分果たしているというふうに調査結果でも出ています。
 しかしながら、実際の介護はどうかと言えば、一人一人認知症の症状は違いますので、電話をかけるとか、洗濯や掃除をするとか、料理をするとか、入浴をするといった生活の1番目におきましても、その行為のどの部分にどのようなサポートがあれば、自立した生活を維持できるのかという観点からその人に接してフォローしていかなければいけない。これはきちんとした教育を受けた、あるいは訓練を受けた人でなければ。私もやったことがありますけれども、非常にきめ細かい配慮を必要とします。そういう専門的な訪問介護員によって、やっと在宅での認知症の人の生活が成り立っているということをぜひ御理解いただきたい。
 私は、きちんとした訪問介護員の資格を持った人がそういう役割を果たしていると考えています。果たしている役割に見合った、その尊厳に見合った報酬と基準をきちんと確保すべきであろうと思います。もしまたここで安易にこういう数字に減額されて基準を見直すようなことがあれば、やはり訪問介護員というのは尊重されていないのだなという風潮を招きますし、ますます人材不足を招くのではないか。そういう意味で、今回提案されています人身基準の見直しでありますとか、報酬の引き下げというのにはどうしても納得がいかないと申し上げたいと思います。
 もう一つ伺いたいのですけれども、先ほどの身体介護と、本当は身体なのですけれども家事援助として入っているという現実もあるわけですが、論点の5番目の○の「身体介護における自立生活支援のための見守り的援助」というのは、不明にして、よく把握していないのですが、これはどういうことを具体的に指すのか。定義なり内容がしっかりありましたら、教えていただきたいと思います。

三浦振興課長
 「老計10号」と私どもが略称しておりますが、平成12年に出した通知がございます。その中で身体介護と生活援助について、ある程度サービス類型というか、中身について記述しておりまして、身体介護の一番下のところに書いております「1-6 自立生活支援のための見守り的援助」は、定義というか、決まった言葉として受けとめていただければと。これをどう解釈するかというより、こういうふうに呼んでおるということがありまして、それが身体介護というものの一つのクライテリアであるということをこの文章の中では表現をしておるものでございます。


<コメント>
さあ、田部井委員の発言です。

この発言が全て正しいというつもりはありません。
「月31回(以上)」が「1日1回(以上)」というのはそのとおりですが、「月100回(以上)」は「1日3回」よりも多くなります。だから、老老介護だったとしても生活援助(のみ)で月100回以上というのは、何か特別な理由がないと考えにくい、と私は思います。
集合住宅などでの囲い込み、不要な(でなければ比較的必要性が低い)サービスではないか、という疑問はあります。

ただ、要介護者の、その行為のどの部分にどのようなサポートがあれば、自立した生活を維持できるのかという観点からその人に接してフォローしていかなければいけない」ということ、その専門性、必要性についてはそのとおりだろうと思います。

ところで、「身体介護における自立生活支援のための見守り的援助」については、田部井委員もよくご存じなかったのですね。少し驚きました。
それだけ、世間に「自立生活支援のための見守り的援助」が知られていない、理解することが難しい、ということでしょうか。
ということは、たとえば「お年寄りがかわいそう」という程度のボランティアや、ちょっと研修を受けたというレベルの従業者が、この概念を十分理解して「軽度者の維持改善に視するような支援」を行うことは容易ではない、ともいえます。

(つづく)