虐待対応の委託はどこまで可能か

ネット上某所に、虐待通報窓口の問題が出ていました。

虐待を受けたのではないかと思われる高齢者の情報を市町村に伝えたところ、
「今回は地域包括支援センター(「包括」)につないでおきますが、今後は直接「包括」に伝えてください」
と言われた、とのこと。

では、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」を見てみましょう。

<青色部分>市町村が全部又は一部を委託することが可能な事務関係
{赤色部分}委託せずに市町村が行うべき事務関係



第6条 <市町村は、養護者による高齢者虐待の防止及び養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護のため、高齢者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うものとする。>

第7条 <養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。>

2 前項に定める場合のほか、<養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。>

3 (略)

第9条 <市町村は、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は高齢者からの養護者による高齢者虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずる>とともに、{第16条の規定により当該市町村と連携協力する者(以下「高齢者虐待対応協力者」という。)とその対応について協議を行うものとする。}

2 {市町村又は市町村長は、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は前項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る高齢者に対する養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護が図られるよう、養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため迅速に老人福祉法第20条の3に規定する老人短期入所施設等に入所させる等、適切に、同法第10条の4第1項若しくは第11条第1項の規定による措置を講じ、又は、適切に、同法第32条の規定により審判の請求をするものとする。}

第10条 {市町村は、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について老人福祉法第10条の4第1項第3号又は第11条第1項第1号若しくは第2号の規定による措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。}

第11条 {市町村長は、養護者による高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、介護保険法第115条の46第2項の規定により設置する地域包括支援センターの職員その他の高齢者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該高齢者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。}

2~3 (略)

第12条 {市町村長は、前条第1項の規定による立入り及び調査又は質問をさせようとする場合において、これらの職務の執行に際し必要があると認めるときは、当該高齢者の住所又は居所の所在地を管轄する警察署長に対し援助を求めることができる。}

2 {市町村長は、高齢者の生命又は身体の安全の確保に万全を期する観点から、必要に応じ適切に、前項の規定により警察署長に対し援助を求めなければならない。}

3 警察署長は、第1項の規定による援助の求めを受けた場合において、高齢者の生命又は身体の安全を確保するため必要と認めるときは、速やかに、所属の警察官に、同項の職務の執行を援助するために必要な警察官職務執行法(略)その他の法令の定めるところによる措置を講じさせるよう努めなければならない。

第13条 養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について老人福祉法第11条第1項第2号又は第3号の措置が採られた場合においては、{市町村長又は当該措置に係る養介護施設の長は、養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護の観点から、当該養護者による高齢者虐待を行った養護者について当該高齢者との面会を制限することができる。}

第14条 <市町村は、第6条に規定するもののほか、養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。>

2 {市町村は、前項の措置として、養護者の心身の状態に照らしその養護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に高齢者が短期間養護を受けるために必要となる居室を確保するための措置を講ずるものとする。}

第15条 {市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援を適切に実施するために、これらの事務に専門的に従事する職員を確保するよう努めなければならない。}

第16条 {市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援を適切に実施するため、老人福祉法第20条の7の2第1項に規定する老人介護支援センター介護保険法第115条の46第3項の規定により設置された地域包括支援センターその他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。この場合において、養護者による高齢者虐待にいつでも迅速に対応することができるよう、特に配慮しなければならない。}

第17条 市町村は、高齢者虐待対応協力者のうち適当と認められるものに、第6条の規定による相談、指導及び助言、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は第9条第1項に規定する届出の受理、同項の規定による高齢者の安全の確認その他通報又は届出に係る事実の確認のための措置並びに第14条第1項の規定による養護者の負担の軽減のための措置に関する事務の全部又は一部を委託することができる。

2~3 (略)

第18条 {市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は第9条第1項に規定する届出の受理、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護、養護者に対する支援等に関する事務についての窓口となる部局及び高齢者虐待対応協力者の名称を明示すること等により、当該部局及び高齢者虐待対応協力者を周知させなければならない。}

第21条 {養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。}

2 前項に定める場合のほか、{養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。}

3 前2項に定める場合のほか、{養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。}

4 {養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けた高齢者は、その旨を市町村に届け出ることができる。}

5 {第18条の規定は、第1項から第3項までの規定による通報又は前項の規定による届出の受理に関する事務を担当する部局の周知について準用する。}

6~7 (略)



ということで、養護者(家族など)からの虐待の場合、通報の受理や相談・助言などを「包括」に委託することは可能です。
(それにより「包括」が窓口になったことの周知は、第18条により市町村が行う必要があります。)

もちろん、委託によって市町村が虐待に関する相談などを行えなくなったわけではありません。
介護サービス事業所などからの通報なら、
今後は「包括」にお願いね、
というのはアリでしょう。

ところで、<青色部分>は委託可能ですが、{赤色部分}は市町村が行う必要があるということになります。
関係機関との協議、警察への協力依頼、老人福祉法に基づく措置、面会制限、後見開始の審判請求、施設虐待関係などです。

ちなみに、自宅への立入りや質問調査関係についても市町村が行うこととされていますが、
「包括」にさせてもよいことになっています。(第11条第1項)

なお、本記事は、市町村と「包括」の仕事の押しつけ合いを助長することを意図しているのではなく、
協力、補完し合って虐待対応にあたっていただくことを願っています。