居宅介護支援の「地域密着型」化は困る

ちょっと前の記事で、国が示した「居宅介護支援事業所の指定を市町村とする」案について、反対意見を書きました。
(この記事の(5)です。)
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/31479606.html
 
もう少し、詳しく書いてみます。

論点は三つ。

1)市町村の境界を超えた利用者の利便性を損なうのではないか。
2)訪問介護など都道府県が指定権を有している居宅サービスと併設している居宅介護支援事業所が多く、事業所側、指定権者側、双方の事務処理が不便ではないか。
3)現行制度でも市町村が居宅介護支援事業所の指導や監査を行う権限を有している。十分ではないか。

3については説明不要でしょう。
なお、問題事業者など、必要に応じて、市町村と都道府県が合同で監査に入るような協力関係は、現在でも行われています。

2については、居宅介護支援と(市町村が指定権を有する)地域密着型サービスとの併設もあるのではないか、という声が出てくるかもしれません。
ですが、訪問介護訪問看護通所介護、通所リハビリなどの基幹サービス、それに特養などの施設サービスとの併設の方が、はっきり多いでしょう。
併設なら、法人登記簿や役員関係など、各サービス共通の申請書類を省略することができますし、指定権者側もチェック作業を省くことが可能です。
また、指定を行った市町村の被保険者しか利用できない地域密着型サービスは、併設であったとしても、居宅介護支援の指定(あるいは更新)手続きとは差異があります。
なお、政令市や中核市については、今春、都道府県から指定権限が移っていますが、居宅介護支援と居宅サービスなどとの指定事務を一括して行うことができるのは同じなので、理論的には問題ありません。

一番深刻な問題が1です。
市町村域を超えた利用は、居宅介護支援事業所の場合、それほど珍しい存在ではありません。

東京都の東端・江戸川区と、大阪市の西端・西淀川区で調べてみました。
(「サービス提供機関の情報」で検索)
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/kaigo/service/
 
イメージ 1
 
 
江戸川区で「通常のサービス実施地域」に千葉県浦安市を含む居宅介護支援事業所、
西淀川区で、同様に兵庫県尼崎市を「通常のサービス実施地域」に含む事業所です。
なお、「併」は併設サービスあり、「単」は単独事業所です。

(検索時に表示された地図を元に加工しています。社会通念上、許容されうる範囲と考えていますが、著作権者の方が問題ありと思われるようなら、お手数ですがコメントください。)
 
大都会でも、この程度はあります(「通常のサービス実施地域」ではないが、転居しても同じケアマネに依頼したい利用者などの存在を考慮すると、「越境利用」は、もっと多いでしょう)。

市町村域の広さに比べて事業所が偏在する地方では、もっと深刻です。
同一市町村内の事業所よりも隣接市町村の事業所の方が近い場合は、けっして少なくありません。

利用者が出る都度、隣接市町村からも指定を行わなければならない「地域密着型サービス」のルールは、活動範囲が(比較的)狭いサービスならまだしも、「足が長い」居宅介護支援には向きません。

蛇足ですが・・・
国がこういう案を出してきたのは、居宅介護支援事業所の指導・支援を強化しようというよりも、
介護保険の運営上の問題の責任を居宅介護支援事業所やケアマネに押しつけようという意図があるのではないか。
そういう陰謀論めいた妄想すら浮かんできます。