貴島論文

鈴鹿医療科学大学の2007年紀要(第14号)に、貴島日出見氏(現在、同大学教授)の論文が掲載されているのを見つけました。
ちょっと古いのですが、なかなか興味深いので、一部を紹介します。
例によって、色文字等の強調は引用者が行いました。



在宅要介護者の要介護度の経年的変化についての研究
―サービス利用量と要介護度変化に触れながら―
http://www.suzuka-u.ac.jp/information/bulletin/pdf/07-05-kijima.pdf



 日本医師会総合政策研究機構報告書第55号では,軽度要介護者に対する家事援助や福祉用具の貸与などの不適切なサービス提供により,軽度要介護者の要介護度の重度化をもたらしていることが考えられるとの報告10) がなされ,2006年度からの介護保険制度定期改正において予防給付重視の方向へと改正の流れを作った。また,2004年3月に出された鹿児島県保健福祉部介護国保課の報告では,「要介護度が『要支援』・『要介護1』の者に限ってみると,『訪問介護』の利用回数が多い者ほど,要介護度が悪化する傾向が見られる。」11) と報告し,予防給付重視への流れを加速させた。鹿児島県のこの報告に対し,池田は「鹿児島県では不必要な訪問介護(家事代行)をケアプランに組み込んでいる可能性があり,その分,軽度要介護者の生活行動が減少して,要介護度の悪化が生じているとも推測できる。」12) と発表している。
 しかし,岡本は前記の鹿児島県保健福祉部介護国保課の報告において訪問介護の利用回数の多い者は要介護度が悪化する傾向にあると論じられていることに対して,サンプルの実数に甚だしい相違があり統計処理の初歩的な間違いを起こしていると指摘し,「『要介護度が悪化したからサービスの利用回数が増えた』という,きわめて常識的な結論であって,『サービスを多用したから,要介護度が悪化した』わけではない」13) と反論している。
 一方,岡山県保健福祉部長寿対策課の報告では,「居宅サービスと施設サービスを3年間利用した者の平均要介護度の推移を調査した結果,居宅サービス利用者の方が施設サービス利用者より要介護度が悪化していない」14) ことが報告されている。
 このように在宅サービスが要介護者の要介護度を悪化させた要因であるのかどうかについては意見が分かれておりまだ明確にはなっていない。

10)川越雅弘:介護サービスの有効性評価に関する調査研究。日本医師会総合政策研究機構報告書第55号,113,2003
11)鹿児島県保健福祉部介護国保課:保険者機能強化特別対策事業『ケアプランチェック体制整備事業』報告書。52,2004
12)池田省三:軽度認定者の増加と重度化を促進している現状が明らかに。日経ヘルスケア21,9,107,2005
13)岡本祐三:介護予防行政の問題点。訪問看護と介護,11,1,30,2006
14)岡山県保健福祉部長寿社会対策課:介護保険サービスの実態調査報告書(介護サービス等適正化推進事業)。9,2004


  C医療法人の居宅介護支援事業所に研究・調査のためにサービス利用者の介護給付レセプトデータの提供を依頼し,2000 年4月から2005年3月までのサービス利用者の実人員979人分の介護給付レセプトデータを入手した。データ提供の依頼はC医療法人理事長に文書で行い,その際先方の定めた様式で個人情報の保護に関する誓約書を提出した。
 介護給付レセプトデータでは把握できないサービス利用者の生死の別と居住の場所やサービス利用の動機については,同事業所を訪問しそこに勤務する10名のケアマネジャーに直接聞き取りを行った。
 悪化の類型では通所サービスが多く利用されている傾向が見られた。
 また,「訪問介護のみ」のサービスは悪化より維持が上回っていた。本研究では要因分析をしていないので,訪問介護が要介護者の要介護度の維持に有用であったかどうかは判断できない。しかし,
2005年の介護保険法改正論議の中で訪問介護が軽度要介護者の廃用症候を促進させ要介護度の悪化に繋がる」と指摘されたことは,調査したC複合体の居宅介護支援事業者の利用者には当てはまらないことが明らかになった。

 本研究は要介護度の変化を経年的に調査し変化の類型化を試み,サービス利用との関係を明らかにした。
 その結果,これまで概念的に示されていた高齢者の機能低下の類型について,要介護の経年的変化の類型として実証的に示すことができた。また要介護度の経年的変化の類型化とサービス利用の関係が明らかになり,
2005年の介護保険法改正に向けて盛んに言われた「訪問介護の多用と軽度者の重度化」が比例すると言われてきたことに疑義が出てきた。これらのことが本研究の意義である。