松野氏、IAEA中立性疑問視の東京・望月記者に反論
産経新聞 8/31(木) 13:05配信
松野博一官房長官は31日午前の記者会見で、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を巡り、安全性などを評価した国際原子力機関(IAEA)の中立性を疑問視する東京新聞社会部の望月衣塑子記者の質問に対し、「中立性に疑問があるとの主張はまったく当たらないばかりではなく、国際機関の存在意義そのものを失わせかねない」と反論した。
望月氏は、会見で日本がIAEAに分担金を支払っていることや日本人職員を派遣していることなどを踏まえ、「IAEAの中立性そのものを問題視する声もあるが、どう考えているのか」と問うた。
これを受け松野氏は「国際機関は固有の財源がないため、活動に要する費用は主に加盟国からの分担金で賄われている」と説明。そのうえで、今年の日本のIAEAの分担率は7・8%で、海洋放出に反発する中国(14・5%)の方が上回っていることを強調した。
それでも望月氏は「中立的と再三繰り返しているが、IAEAはそもそも、原子力利用を促進する立場の機関だ」「散々、中国を批判しているが、海洋放出は十分検討すべきだった」などと主張したが、松野氏は処理水放出が安全基準に適合すると結論付けたIAEAの包括報告書を挙げ、「IAEA自身が選定した外部の国際専門家を含む独立した第三者の立場から科学的知見に基づいて評価をしており、政府としては中立と考えている」と語った。
https://news.yahoo.co.jp/articles/82e5dcb369ad2355b063d72b941e58c0c5e2f0ef
東京新聞については、別の記事ですが、他メディアからの論評があります。
「IAEAは中立か」東京新聞の処理水めぐる報道、元国連広報官は「結論ありき的な記事」と指摘
(ハフポスト 2023年07月21日)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/tokyo-iaea_jp_64ae0c6be4b02fb0e6fbbfd8
(以下抜粋)
分担金や人員派遣を理由に、国際機関であるIAEAの中立性を疑問視した東京新聞の論旨を、国際機関に詳しい専門家はどうみたのか。
ハフポスト日本版は、上智大学グローバル・スタディーズ研究科の植木安弘教授(国際関係論)にインタビューした。
植木教授は、国連事務総長報道官室や広報局戦略広報部国連広報センターサービス部長などを歴任してきた元国連職員。
2003年のイラク戦争直前には、国連大量破壊兵器査察団のバグダッド報道官を勤めるなど、各国の利害が激しくぶつかり合う国際政治の最前線で働いてきた。
(略)
ーー「そもそもIAEAはどこまで信を置けるのか。かねて日本政府は、IAEAに巨額の分担金や拠出金を支出してきた。IAEAのお墨付きは、中立的な立場から出たと受け止めるべきか」。こんな前文から始まる東京新聞の記事に、どんな印象を持たれましたか?
はじめに、結論ありき的な記事ですね。
処理水の海洋放出に関して、日本政府がIAEAに政治的な影響力をかけているのではないか、ということかと思いますが、IAEAは国際機関ですので、政治的な部分には関与せず、中立的な立場から業務を行っています。
また、職員は国際公務員で、各国の政治的主張を受けてはいけないという基本原則があります。
今回、IAEAは科学的な根拠に基づいて評価していますし、この中立的な立場は基本路線として変えることはできません。
(略)
IAEAも国連の分担率をベースに分担金が決められています。ただ、加盟国数が違うので、国連の分担金とは多少のズレがあります。
最新の数字は、アメリカが25.1%、中国が14.506%、日本が7.758%ですね。通常の予算を、この分担金からまかなっています。
(略)
ーーはっきり言って、国際機関であるIAEAが「分担率が高い国」の言いなりになることは「ない」と断言できるのでしょうか。
もちろんです。
先ほど申し上げた通り、今はアメリカと中国が1、2位の分担率となっています。
では、国連や国際機関はアメリカと中国の言うことだけを聞いていますか?そうではありませんよね。
ーー働く職員にも分担率は影響しないと。
IAEAの職員は国際公務員です。国際公務員は国連憲章にあるように、中立的な立場でなければいけません。
ですので、各国の政治的な要求に基づいて行動するということは、国際公務員として「憲章違反」になり、クビになります。
そもそも、分担率を理由にIAEAが中立的ではないというのであれば、処理水放出に反対の中国が分担率で日本を上回っているので、その論理自体が成り立たないと思います。
ーー記事に「IAEAのお墨付きは『原発推進派の茶番劇』」とありましたが、科学者の集団であるIAEAが科学的に間違ったことを主張すれば、世界中の科学者から反論を招く気がします。
そうですね。
国際機関のあり方を理解する必要があります。
ーー「IAEAについて無視できないのは電力業界からの人員派遣。利益代表の側面がある」という文言もありました。
何度も申し上げていますが、例えば政府から来ようが、電力業界から来ようが、いったん国際公務員となると、国連憲章上の「中立の義務」に従わなければなりません。
ですので、政府や特定の業界の言いなりになるということは考えらません。
特に原子力は特殊な分野で、その分野のことに詳しい専門家がいなければ十分な活動ができません。
また、国連や国際機関の職員は地理的に偏ってはいけないので、全世界からできるだけ公平に職員を集めています。
(略)
そういう意味では、日本の専門家が母国の意向に基づいて発言したとしても、IAEAの中で当然議論されるので、政治的な背景を持った人の発言がすんなり通るということではありません。
世界中から職員を集めているので、一国の意向だけが反映されるというのではなく、中立的な立場から科学的根拠に基づいて判断しているということです。
ーー外務省の「令和4年度 国際機関等への拠出金等に対する評価」には、「日本は(中略)IAEA設立以来一貫して指定理事国を務めており、IAEAの予算や政策策定、重要課題への対応及び一連の活動実施で積極的に関与し、日本の意向を反映できる地位にある」と記載されています。
日本は理事国ですので、予算の政策決定など理事国としての活動もあります。つまり、IAEAの活動に貢献するという意味合いです。
「日本の意見を反映できる。だから、IAEAが処理水放出を認めた」という解釈ではありません。
IAEAの理事国は、日本だけではありません。理事会は35か国で構成されています。処理水の放出に反対している中国も、理事国の一つです。
一つの国だけが意見を主張しても、他の国が納得しなければ成立しません。日本の意向を反映できるという意味は、理事国にいることによって、IAEAの活動に貢献しているということです。
ーー記事は最後に「国際貢献で支出が必要だとしても、資金提供する組織に評価を求めれば、『配慮』が働く恐れがある。お墨付きをもらう相手を間違えていまいか」というデスクメモで締めくくられていました。
批判的な立場から見るとそう見えるのかもしれませんが、IAEAのような専門機関はあくまでも科学的根拠に基づいて行動しています。
例えば、イランの核問題もありましたが、IAEAはもちろん中立的な立場から科学的根拠に基づいて理事会に報告しています。
世界中で原子力が適切に平和利用されているかどうか査察を行っていますし、今回の処理水についても、IAEAが持つ科学的な知見から結論を出しています。
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<引用ここまで>
つけ加えれば、この処理水放出問題までは、IAEAなどの国際機関の姿勢について、東京新聞がこのような批判や疑問を呈したという記憶が、私にはありません(たとえば、ウクライナの原発を占拠しているロシアに対してIAEAが批判的な懸念を示したときなど)。
国際機関に対する評価を変えてはいけない、とは思いませんが、その場合はそれなりの理由が必要だろうと思います。
分担金等を理由とすることは、(それ自体、IAEAに失礼な話ですが)日本よりも分担金が多い中国の存在で、論拠としては成り立ちません。
東京新聞は、今回のIAEAの処理水についての見解が気に入らなかったから、批判しているように私にも思えます。
自分の意見と異なる見解を出した国際機関に、買収だ忖度だとか主張するのは、中国政府や韓国野党と似ていますね?