「黒い雨」訴訟・国の言い分

先日の「黒い雨」訴訟(と勝手に呼んでいますが)で、控訴を余儀なくされた広島県広島市の対応については、前記事で触れました。

 

では、国(厚生労働省)の言い分について。

 

被爆者の認定訴訟においては、国側(名目上は自治体側)がけっこう敗訴している印象があります。

国の考え方と、裁判所の考え方の乖離が大きい、というような意味のことが、厚労省の会議資料にも登場しています。

例:第5回原爆症認定制度の在り方に関する検討会(H23.7.15)
資料3「原爆症認定に係る司法判断の状況について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001jfuj-att/2r9852000001jg05.pdf

 

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資料の赤色は私の書き込みです。

大雑把にいえば、国は「最新の科学的知見」に執着しすぎ、裁判所は各事案の個別事情を重視している、ということになります。

もちろん、国側には国側の言い分があり、「医学的・科学的見地からは、司法の判断は極めて疑問」としています(その医療分科会委員という方々が「御用学者」なのかどうか私にはわかりませんが)。

行政の事務処理としては、何らかの客観的なルールで線引きして、個別事情を勘案しなくても機械的に対応できる方が望ましい、という考え方も一般的にはわからないわけではありません。ですが、原爆による被害という、これまで前例のなかった深刻な状態に対しては、「最新の科学的知見」といえども十分なものではなく、結果として国側敗訴が続出している、ということではないでしょうか。

 

ちなみに、国が認めている範囲のイメージは、下図の水色(青点線囲み)の範囲内、広島市などの調査で拡大を求めているのが赤実線の範囲です。

 

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各新聞社などが図を掲載していますが、著作権法のからみもあり(著作権フリーの資料がなかなか見つからない)、広島市の資料を基にして、少し書き込みをしました。

<参考>

https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/life/112282_114432_misc.pdf

 

さて、前記事では、次のような厚労相発言や国の意向についての報道がありました。
「訴訟とは別に、国として専門家らによる組織を作り、援護区域について拡大を視野に再検討する考えを示した。」
「スピード感を持って作業をしたい」

「国は十分な科学的根拠がなく、上級審の判断を仰ぐ必要があるとして市と県に控訴を求めた。」
「地裁判決は累次の最高裁判決と異なり、十分な科学的知見に基づいたものとはいえない」

 

上にも書いたように、国側としても言い分はあると思います。また、裁判については控訴や上告をする権利はあります。

ですが、地裁で負けて(それ以前にも、本件と内容が違うにしても多数の敗訴があります)、それから「再検討」とか「スピード感」とか、遅すぎませんか?

また、国がいう「科学的根拠」「科学的知見」というものは、「被爆直後の混乱期に限られた人手で実施され調査範囲や収集できたデータ」に基づくものです。データからの推論や分析が「科学的」なものであったとしても、データに問題があれば、それは「差秦の科学的知見」とは言い難いでしょう。

だから、もっと早くに国が再調査なりなんなりしておくべきでした。