穀物合意延長拒否の周辺

日本維新の会参議院議員鈴木宗男氏の7月26日のブログより。

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(東京大地塾で) 私からウクライナ情勢についてロシアの「イズヴェスチャ」紙に21日「ロシアから日本への穀物輸出増大」<1>という記事や、ロシア、ウクライナ、国連、トルコによる穀物協定についてこの1年間3280万トンの貨物が輸出されたが、その70%がEUを含む高所得国に輸出され、アフリカ等には全体の3%以下100万トンにも満たない<2>ことを話し、また、穀物を運ぶ船には何が積まれているかもわからない<3>ので、ロシアが神経質になっていること等話す。
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注:< >数字は、これ以降を含めて引用に際し、私が付しました。

 

さて、「イズヴェスチャ」(イズベスチヤ)紙は旧ソ連政府系で、その後いろいろ経緯はあったものの、現在はロシア政府の意向を酌んだ情報を発信していると思われるメディアです。

 

<1>「ロシアから日本への穀物輸出増大」
これについては、他のメディアでも食料等の輸入増という報道がありますし、事実である可能性は高いと思います。
<例>
「ロシアからの水産物輸入額は過去最高、カニは3割増…経済制裁の対象外」
読売新聞 2023/05/10
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230509-OYT1T50275/

 

<3>穀物を運ぶ船には何が積まれているかもわからない
というのは意味・根拠不明です。
ウクライナから出る船は穀物で満載のはずですし、ウクライナから軍事物資を「輸出」するのは、その理由も余力もないでしょう。
ウクライナに入る船の積荷が心配なら、黒海入口のトルコ付近で点検すれば済む話です。

 

さて、<2>(協定に基づく穀物の)70%がEUを含む高所得国に輸出され、アフリカ等には全体の3%以下100万トンにも満たない
この数字、根拠は? ↓この記事でも似たようなことを主張しているみたいだけど、プーチン氏の脳内データですか?

 


ロシア、黒海穀物合意延長「根拠ない」 農業銀のSWIFT接続要請
ロイター 7/5(水) 1:01配信

[4日 ロイター] - ロシア外務省は4日、国連などが仲介している黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)について、延長する根拠がないとの見解を示し、7月17日の期限切れ前に対象となる全ての船舶が黒海の海域から出られるようあらゆる手段を尽くしていると表明した。

同時に、国営のロシア農業銀行を国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)に再接続するよう改めて要請。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が3日、ロシア農業銀行が子会社を創設して国際金融ネットワークに再接続することを認める案について欧州連合(EU)が検討していると報じたが、このような妥協案は受け入れられないとの立場を示した。 
(略)
外務省は声明で、黒海イニシアティブを通して食料が十分にある国にウクライナ穀物が供給されたが、アフリカ、アジア、中南米の食料を最も必要としている国々には届いていないと指摘。最も貧しい5カ国(エチオピア、イエメン、アフガニスタンスーダンソマリア)には協定の下で輸出された穀物の2.6%しか供給されていない<4>としたほか、ロシア産の穀物と肥料の輸出は悪化の一途をたどっている<5>との認識も示した。

その上で、こうした状況下で「7月17日の期限切れ後も延長する根拠がないのは明らかだ」とした。  

これとは別に外務省のマリア・ザハロワ報道官は、FTの報道について、新組織を立ち上げるには何カ月もかかる<6>うえ、SWIFT接続にさらに3カ月かかる<7>として、こうした案は「意図的に実行不可能」との見方を示した。

ザハロワ氏は、ロシア農業銀行とJPモルガンとの間に代替決済チャネル設置する国連の案も否定。「SWIFTに代わるものは存在しない」と述べた。

ロシアは、ロシア農業銀行がSWIFTから締め出されたことがロシア産の食料と肥料の輸出の障害になっているとしており、この問題が解決されない限り黒海イニシアティブは延長できないとの立場を示している。

国連によると黒海イニシアティブの下で黒海に面するウクライナの3つの港からこれまでに45カ国に3200万トンを超える食料が輸出されており、同合意が延長されなかった場合の影響は大きいとみられている。
(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/3e621051d9652bf11da2b4ada503a160580aa6fe

 


<4>アフリカ、アジア、中南米の食料を最も必要としている国々には届いていない
最も貧しい5カ国(エチオピア、イエメン、アフガニスタンスーダンソマリア)には協定の下で輸出された穀物の2.6%しか供給されていない
ここでも数字の根拠は示されていません(<2>と同様)。
ちなみに、これらアフリカ、アジア、中南米や、国連から、これと辻褄が合うような(ウクライナ側に対する)苦情は出ていません。
(本当は、国連あたりから輸出実績について相手国別の数値の公表があればよいと思うのですが、出ていないのか、私が見つけられないのか・・・)

なお、
<5>ロシア産の穀物と肥料の輸出は悪化の一途をたどっている

肥料については、逆にロシア側が輸出制限をかけています。
JETRO 2022年06月02日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/2bd7bf45b6a0ec1b.html

 

ロシアからの食糧輸出については、<1>にもあるように、穀物を含めて増えているという情報は多く、また信頼できると思います。
少なくとも、「ロシア産の穀物と肥料の輸出は悪化の一途をたどっている」というのは虚偽と考えていいでしょう。

 

<6>新組織を立ち上げるには何カ月もかかる
嘘でしょ?
プーチン氏が、(軍事的にはワグネルとか思いどおりにならない要素があるとしても)社会的・制度的には事実上独裁的な権力を持っているのだから、子会社の立ち上げなんて数日も経ずにできるはず。

<7>SWIFT接続にさらに3カ月かかる
アフリカ等への食料供給がかかっているのだから、文字どおりあっという間にできるでしょう。
万一できなければ、国連を通じて圧力をかけてもいいし、それでもダメなら離脱すれば(あるいは離脱カードを切って接続させれば)よいだけの話。

つまり、穀物輸出合意の延長拒否については、SWIFTからの締め出し制裁をなんとか緩めたいというイチャモンに過ぎないと思います。
逆にいえば、やはりSWIFT制裁は効果があるということなのかな?