境界線上の話

ウェルの介護保険制度掲示板に「介護保険と重度訪問介護の同時刻の利用」というスレッドがあったので、自分なりにちょっと整理しようと思いました。

いわゆる併給関係については、さまざまな議論がありますが、障害系のサービスについては、支援費支給制度掲示板(現在の「障がい者自立支援掲示板」)で、くぼたん@支援費担当さん(当時)がわかりやすく整理されています。

1.物理的に同時受給は考えられないので併給不可
(~を受けている間)
例:居宅支援費相互

2.サービスの性格が似通っているため、重複支給防止の観点から不可
(~を受けることとなっている間)
例:通所施設とデイサービス

3.根本的にだめ
入所施設と居宅支援費

1については、よく話題になったのは、訪問サービスと、通所や短期入所サービスです。

平成18年厚生労働省告示第523号の別表・介護給付費等単位数表の「第2 重度訪問介護」の注12を見ると、
利用者が重度訪問介護以外の障害福祉サービスを受けている間(第9の1のイの共同生活介護サービス費(5)を受けている間(指定障害福祉サービス基準附則第18条の2の規定の適用を受ける利用者に限る。)又は同ロの経過的居宅介護利用型共同生活介護サービス費を受けている間を除く。)又は旧法施設支援を受けている間は、重度訪問介護サービス費は、算定しない。
とあります。
算定できないのは「受けている間」ですから、たとえば日中に重度訪問介護を利用していて、夕方に家族の急病などで短期入所が必要になったような場合では、時間の重なりさえなければ、どちらのサービスも算定できます。

障害者自立支援法が施行されてからは、報酬告示の文言も変わっている場合もあり、
たとえば日中活動と短期入所を併用する場合には、短期入所の単価が安くなる、ということで整合性を図っているようです。


介護保険ではどうでしょうか。
平成12年厚生省告示第19号の別表・指定居宅サービス介護給付費単位数表「1 訪問介護費」(イ)~(ハ)の注14では、
 利用者が短期入所生活介護、短期入所療養介護若しくは特定施設入居者生活介護又は小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護若しくは地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護受けている間は、訪問介護費は、算定しない。

介護保険の短期入所や居住系サービスについては、「受けている間は・・・算定しない」と明示していますが、その他の居宅サービスについては言及していません。
また、自立支援給付など他の制度との併給関係については触れていません。
(先に重度訪問介護でも見たように、自立支援給付の告示でも、介護保険など他のサービスとの関係については触れていません。)

介護保険制度内の他の居宅サービスとの関係のうち、訪問サービスについては、留意事項通知(平成12年3月1日付け老企第36号)の次の箇所で触れられています。
(なお、通所サービスについては、それが提供されている場所が「居宅」ではないので、訪問サービスとの併給問題はそれほどややこしくはないと思います。)

第二「1 通則」
(4)同一時間帯に複数種類の訪問サービスを利用した場合の取扱いについて
 利用者は同一時間帯にひとつの訪問サービスを利用することを原則とする。ただし、訪問介護訪問看護、又は訪問介護と訪問リハビリテーションを、同一利用者が同一時間帯に利用する場合は、利用者の心身の状況や介護の内容に応じて、同一時間帯に利用することが介護のために必要があると認められる場合に限り、それぞれのサービスについてそれぞれの所定単位数が算定される。例えば、家庭の浴槽で全身入浴の介助をする場合に適切なアセスメント(利用者について、その有する能力、既に提供を受けている指定居宅サービス等のその置かれている環境等の評価を通じて利用者が現に抱える問題点を明らかにし、利用者が自立した日常生活を営むことができるように支援する上で解決すべき課題を把握することをいう。以下同じ。)を通じて、利用者の心身の状況や介護の内容から同一時間帯に訪問看護を利用することが必要であると判断され、30分以上1時間未満の訪問介護(身体介護中心の場合)と訪問看護(指定訪問看護ステーションの場合)を同一時間帯に利用した場合、訪問介護については402単位、訪問看護については830単位がそれぞれ算定されることとなる。

「同一時間帯にひとつの訪問サービスを利用することを原則」としながらも、
利用者の心身の状況や介護の内容に応じて、同一時間帯に利用することが介護のために必要があると認められる場合
については、訪問介護訪問看護(または訪問リハビリ)のそれぞれを算定できる場合があることを示しています。

訪問看護については、介護保険だけでなく医療保険適用の場合もあるので、介護保険制度掲示板で紹介されていた
介護保険制度において他制度との同時刻請求が認められない」という市職員の発言には疑問符が付きます。


本来、各制度の併給制限というのは、公費が重複給付されないように、という目的のために設けられているのでしょう。
一般的には、同一時間帯に複数の訪問サービスを利用することは必要性が低く、また効率が悪いとも考えられます。
ただ、前述の訪問介護訪問看護のように例外的に必要な場合もあります。

平成19年3月28日付け障企発第0328002号・障障発第0328002号では、次の場合にも介護給付費(自立支援給付)を支給することが可能とされています。
 利用可能な介護保険サービスに係る事業所又は施設が身近にない、あっても利用定員に空きがないなど、当該障害者が実際に申請に係る障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用することが困難と市町村が認める場合(当該事情が解消するまでの間に限る。)。

「ヘルパーの2人訪問が必要」だが「介護保険訪問介護事業所では1人しか訪問が困難」ということなら、不足分の1人分を障害者サービスの事業所から派遣してもよいように思われます。
(「不可」とされるのは、ヘルパー1人しか必要でないのに両方の制度から1人ずつ派遣する場合ではないでしょうか?)

介護保険訪問介護と、障害者サービスの重度訪問介護の同時刻の利用というのは、たしかにイレギュラーな、国が想定していないことかもしれません。
が、訪問介護事業所も重度訪問介護事業所も2人ヘルパーの派遣が難しい時間帯にサービス提供が必要な場合など、特別の事情があれば、自治体判断により双方の算定を認めても、制度の理念には反しないように思います。